296人が本棚に入れています
本棚に追加
ジュリは最初大河を敬遠していた。
伊丹と2人で住んでいた家に、大河まで来たことにジュリは面白くなかった。
「ジュリの家庭教師の大河だ。仲良くしろよ」
伊丹がジュリに紹介するが、ジュリはツンと顔を背ける。
「反抗期なもんでな。まぁ、問題だけは起こすな」
伊丹は笑って直ぐに出かけていった。
「よろしく、ジュリ」
大河は優しい声で言う。ジュリは一切興味を持たない。
「取りつく島もないな。まぁ、良いや。ねぇ、ジュリ。これって知ってる?」
大河はキャビネットからワイングラスを数個出すと、水差しに水を入れグラスにそれぞれ目分量で水を入れだした。
大河は指先を濡らしグラスの縁をなぞると音が出た。
それぞれ入れた水の量によって音階がある。
「何?何これ!」
ジュリが興味を示し、大河は優しく微笑む。
「グラスハープと言うんだ。ジュリもやるかい?」
「うん!やりたい!」
ジュリは目を輝かせる。
「まずは手を洗って綺麗にして、指先を濡らすんだ」
ジュリは言われた通り手を石鹸で綺麗に洗い、指先を濡らすと大河の真似をする。
「力を入れずに優しくなぞってごらん」
言われた通りやってみると音を奏でた。
「凄い!僕もできた!」
嬉しそうにジュリは大河を見る。
「これは、科学の実験と同じだよ。ねぇジュリ。俺ともっと一杯いろんな実験をして遊ばないか?」
「やる!もっと色々やりたい!」
ジュリは一瞬にして大河に尊敬の眼差しを向ける。大河はただ優しく微笑んだ。
次の日から、大河はジュリに科学の実験や算数の楽しさを教えた。
「春になったら生き物の観察にも行こう。山や海や、あちこち行こう」
大河の言葉にジュリはもう夢中だった。
ジュリの過去は全て伊丹から聞いる。
自分よりも過酷な運命を、まだこんな幼い身体で受けたと思うとやるせなかった。ジュリの父親を許せなかった。
大河はジュリを傷つけないように、怖がらせないように常に優しく接した。
そして、ジュリの心を掴んだ大河に伊丹も信頼を寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!