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ジュリをフリースクールに送ると、大河は事務所に出勤した。
伊丹のスケジュールを確認してパソコンで作業を始める。
「大河、ちょっといいか?」
いかつい顔をした、伊丹の舎弟が大河に声をかける。
「12月13日に新年の事始めがある。その準備をお前も手伝ってくれや。新年の挨拶には、本家の飯塚組長の家にも行くしな。お前もちゃんとこっちの世界少しは勉強しとけ」
舎弟から説明を受けても、大河は初め何を言われているのか分からなかった。
どうやらヤクザとは、12月13日に新年の祝いをすると言うことが後々わかった。そして新年を迎える。
昼過ぎに伊丹は事務所にやってきた。
「その日はお前はジュリと家に残ってくれ。ジュリもお前も組の人間じゃねぇ。準備は手伝ってもらうが表には出るな」
事務所の伊丹の部屋で、伊丹はそう大河に言った。
「ただ、年明けは2人とも組長に合わせることになっているから、それだけは忘れるな。まぁ、お前は心配ないが、ジュリがなぁ」
楽しそうに伊丹はそう言う。
「あいつの人見知りは異常だから、組長に粗相をしかねねぇ」
「では、ジュリは置いていったほうが」
大河が言うと伊丹は煙草に火を点け首を振る。
「いや。ちゃんと挨拶はさせないとな。俺の家にいる以上、お前もジュリも俺の家のモンだ。組長を無視するわけにはいかねぇ」
伊丹に家族として認められたようで大河は嬉しかった。
伊丹が煙草を燻らす姿に熱い眼差しで見惚れてしまう。
その姿に身体が熱くなる。
伊丹を想い切ない夜はあったとしても、大河は伊丹から離れることなどできなかった。
例えこの想いが届かなくとも、伊丹が女を抱こうとも、伊丹への気持ちが揺らぐ事はなかった。
「こっちの事情も分かってくれてるから、組長の家には5日に行くと言ってある。お前のスーツの準備をするか。ジュリの分も合わせて菱越の外商に連絡しておいてくれ。今日の夕方に行くぞ」
伊丹の指示に大河は従う。伊丹の部屋を出ると自分のデスクに戻り、菱越本店の外商担当に電話をした。
午後に仕事を終わらせると、ジュリをフリースクールまで迎えに行く。
「デパートに行くの?」
「うん。会長も来るから、このまま行こう。今日はどうだった?」
フリースクールの様子を大河は毎日尋ねる。ジュリは相変わらず楽しいようで、友達も少ないが出来てきたようだった。
「12月にクリスマスパーティーするんだって。今ね、その準備もしているんだよ」
嬉しそうにジュリは言う。
車の窓から見える街並みは、もうクリスマスの雰囲気になっていた。
ジュリに何かプレゼントを用意しようと大河は考えた。
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