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伊丹と菱越本店で落ち合うと、外商サロンに3人は入った。
ジュリはもう何度も来ているので慣れたもので、欲しいものを担当に注文する。
大河は初めてでどうしていいのか分からず、伊丹に全て任せることにした。
「スーツとワイシャツとネクタイ。それに合う革靴を頼む。あ、ベルトもな」
前に準備してくれたスーツは、伊丹の舎弟に連れていかれた紳士服専門店の物だったが、今回は高級ブランドだったので生地の手触りも違う。
靴も本革で美しい艶があった。
「こんな高級な物、買っていただくのは」
担当が席を外すと大河は小声で伊丹に言う。
「ちょっと早いクリスマスプレゼントだと思え」
伊丹は余裕で笑う。
いったいいくらになったのだろうと、庶民の大河はそればかりが気になった。
結局ジュリは、女児に人気のブランドのパンツスーツとエナメルの靴、バッグなどを選んでいた。
ジュリは絶対スカートを履かない。
女の子の姿は好んでするが、スカートに対しては忌まわしい思い出しか無かったからだ。
伊丹はクリスマスプレゼントとして、欲しがっていたゲーム機もジュリに内緒で一緒に注文した。
買い物を済ませると、伊丹とはそこで別れた。
また今夜は女の所かと思うと大河は少しだけ辛かった。
ただ、なぜ伊丹は結婚しないのか不思議だった。
ジュリを我が子のように可愛がっている姿を知っているので、きっと自分の子供が出来たら溺愛するのは分かっている。
しかし、結婚どころか、自分の子供も持とうとしない。
それだけが大河にとっては不思議でしかならなかった。
帰り道、ジュリがクレープが食べたいと言うので原宿に寄った。
美味しそうに食べるジュリを眺めながら大河は缶コーヒーを飲んでいた。
「さあ、帰ろう。今夜の夕飯は何かな」
車を留めている代々木公園まで歩きながら大河がジュリに尋ねる。
「うーん、カレーかな。昨日勝子さんにはリクエストしておいたんだけどな」
大河と手を繋いでジュリは言う。勝子とは、夕方までいる家政婦の名前だった。
「じゃあ、カレーだね」
大河がそう言って微笑むと、ジュリが大河の手をギュッと握る。
大河はジュリを見る。
「どうした?」
ジュリは青ざめた顔で大河の後ろに隠れた。
大河のスーツをギュッと握ってガタガタ震えている。
ジュリの目線の先を見ると、中年の男が歩いていった。
「大丈夫?」
ジュリはフーと息を吐いた。
「あいつじゃないと分かってても、あいつに似た奴を見るとこうなるんだ」
あいつとは、ジュリの父親だろうと大河は分かった。
大河はジュリをギュッと抱きしめる。
「大丈夫だよ。俺も会長もジュリを守る」
ジュリは大河にしがみついた。
ジュリの痛みを感じながら、しばらくジュリを抱きしめた。
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