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一夜目
「ふっ、俺は女じゃないよ」
どうしてそんな話になったのか。多分俺が宮城圭佑のことを、女みたいだなと思ってしまったからだろう。
整って中性的なその顔立ちと、日焼けなんてしたことのないような白い肌。それから、俺とは違ってよく笑うところが女みたいだなと思ってしまった。姉二人に囲まれ、寡黙な父を見てなおそう思ったのだろう。
「そ、そうだよな」
酔っ払いが通るのにこんな薄暗くていいのかと疑問に思う居酒屋の通路で、俺達は向かい合って立っていた。その横には潰れた同級生がいたはずなのだが、今はそんなことはどうでもいい。
宮城の顔が紅いのは、酒のせいなのか?
「ほら」
宮城は一気に距離を縮めると、フワリと酒の匂いがした。身長差のせいで、どうしたって宮城は上目使いに俺を見る。あぁ、確かにこれはヤバいな。甘えるように細められた目が色っぽく見えてしまう。
「触ってみなよ」
「え?」
ふいに手を握られ、それを宮城は自身の胸に押し付ける。それに驚いて手を引っ込めようとしたが、身体は言うことを聞かなかった。
「ね?」
シャツ越しから伝わる体温と、掌から伝わる体温。その両方に包まれ、俺の手も段々と熱を帯びてくる。確かに女のような弾力はないが、その代わりに脂肪の柔らかさがあった。それがなんだか触り心地がよく、うっかりすると揉んでしまいそうだ。
いやいや、何を考えてるんだ。相手はこの前初めて会った、しかも男だぞ。なのに、なんなんだこの感情は。
「なぁ、勝川」
そこで俺は、夢から醒めたんだ。秋だというのに、汗をびっしょりとかいている。それから身体の異変はもう一つ。
そっと自分の下腹部に手をやってみれば、緩く勃ち上がっているのがわかった。それを確認して、俺はつくづく自分が嫌になる。
まさか同じ研究室の、しかも男の胸で勃つなんて。
明日からどんな顔をして会えっていうんだ。怒りの矛先を誰にも向けられず、俺はまた布団を頭からスッポリと被った。
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