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心を探して
喋るのが得意じゃない、わたしは、人ごみのざわめきが好きだった
その中にいるだけで、わたしも、世界に溶けこめるような気がして、
わたしは、よく、人ごみの中に立った
でも、体の小さなわたしは、押されて、もまれて、流されて、転ぶことも多かった
「いたっ」
わたしが転んだところで、人の流れがとまることはない
仕方ない、ここにいる人たちからしたら、わたしなんて、あって、ないようなものなんだから
そう思って、いつものように痛みをこらえて、体を起こそうとしたとき、
ふと、一部分だけ、人の流れがとまった気がした
「大丈夫?」
「起きれそう?」
その人は、転んだ、わたしより、痛そうな顔をして、傍に立っていた
「あ~、血、出てるね、痛くない?」
「とりあえず、この水で洗って、これで、覆っておけば大丈夫かな?」
「これ、返さなくていいから、気をつけて帰るんだよ」
その人は、早口で喋りながら、私を助け起こし、傷口を洗うと、
最後に、膝にピンクのハンカチを巻いて去っていった
一体、なんだったんだろう
わたしは、驚いて、声も出なかった
だってわたしに、気づいてくれた人なんて、はじめてだったから
しかも、こんなわたしを、助けてくれるなんて
わたしは、ほわほわした、はじめての感情を感じながら、
いつまでも、その後ろ姿を見送っていた
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