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呆れながら言うと、風弥は正真正銘シラフです、と答えながら笑う。
こいつといると学生時代に戻った気分になる。
懐かしくて、微かに笑いながら灰皿を借りて煙草の火を消した。
「酒がダメならまたパンケーキの店でも行くか」
「俺たちもういい年ですよ。さすがにキツイですって。しかも俺の好きなものじゃお礼にならないじゃないですか」
「なら飲み決定だな。なんかいい店探しとけよ」
そう言い残して保健室から出ていく。
すると、目の前にある生徒が待ち伏せていた。
俺が受け持つクラスの生徒、仙崎葵だ。
「お前、いま来たのか。もう一時間目始まってるぞ」
「体調悪いから……保健室に」
「またサボりにきただけだろ。教室に戻れ」
「うるせーな! お前には関係ねーだろ、そこ退けよ」
仙崎は掴んだ俺の手を振り払って、保健室に駆け込む。
(やめろ……行くな)
空いた扉の隙間から満面の表情で微笑む風弥の姿が見えた。
今まで俺が見た中で一番の笑顔。愛しげに仙崎の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
二人の関係を知ったのは数週間前のことだった。風弥と仙崎が屋上で愛し合っている光景を目にしてしまった。
(なんで……あいつなんだよ)
相手が女なら諦めが付いた。なのに、知り合ったばかりのましてや男なんかに奪われたことが悔しかった。風弥のことは誰よりも理解しているつもりだった。だけど風弥にあんな顔をさせられるのは俺じゃなかったんだ。
やりきれない思いを抱えながら風弥と同じ銘柄の煙草の箱を握りしめてその場から立ち去った。
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