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夏休みから明けて一週間が経った。
今日から俺が受け持つクラスに新しい生徒がくることになっている。
高3の中途半端な季節にやってくる時期外れの転入生。
名前も珍しく、下の名前が二つ並んでいるようなフルネームだ。
転入手続きの際に母親には会ったが本人は来ていなかったため転入当日にして今日始めて会う。
「柳瀬先生。来ましたよ」
「はい、すぐ行きます」
例の転入生が来たというので迎えに行く。
職員室を出ると、掲示板を見上げている生徒の姿が目に入った。
他校の制服を着ているので、恐らく彼に間違いないだろう。
黒髪で適度にワックスか何かで無造作に散らされた髪。
アクセサリー類は付けてなく、ピアスが空いた形跡もない。
校則違反には引っかからない程度に遊んでいそうな今どきの高校生といった印象を受けた。しかし、気怠げで中性的な顔つきには見覚えがあった。
(え……こいつ……いや、ただ似てるだけだろ)
一瞬疑ったが、思い違いだと判断して生徒に声を掛けた。
「君が美咲くん?」
声を掛けると生徒はにこりと笑って振り返る。
「はい、そうです。遅れてすみません。まだ慣れないから途中で迷っちゃって」
「時間にはまだ余裕があるから問題ない。教室まで案内するから着いてきてくれ」
声色も顔つきもすべて似ている。とても他人とは思えない。
例え本人だったとしても確認する術はない。
こちらから切り出したら終わりだ。
無言のまま廊下を歩いていると、先に沈黙を断ち切ったのは彼の方だった。
「ねぇ、先生。普通、初めて会った相手には自己紹介しません?」
愛想のいい話し方から一変して、癪に障るような態度で俺の反応を伺ってくる。言葉に詰まり冷や汗が滲んだ。
「あ、そっか。初めてじゃないからか」
「何言っているんだ……」
「へぇ、あくまでしらを切るつもりなんだ。こっち来て」
突如、腕を掴まれて空き教室に引きずり込まれる。ドアを閉めると壁に思いっきり押し付けられた。
「誤魔化そうたって、そうはいかねーよ。あんた、この間寝た客だろ」
思考がオーバーヒートして理解が追いつかない。
正確に言えば理解することを体が拒否している。
動揺して微動だにできないでいると、生徒は俺のワイシャツのボタンに手を掛けた。
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