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あの子が消えた理由 1
こぼれた涙が、地面にまだら模様を描いた。なつみは、田舎から転校てもう二週間経っても友達ができなかった。それだけでなく、イジメまで受けていた。
理由は簡単、言葉になまりがあったからだ。初日の自己紹介の時から、なつみが何かしゃべるたびにくすくすと笑われるのだ。
学校が終わっても遊んでくれる人もなく、親に泣いている顔を見られたくなくて、なつみは一人、神社の木の根本でうずくまっていた。
自然の少ない都会で、ここだけは緑が多くて、少し田舎に戻ったような気分になれる。
「もう、学校に行きたくない……」
うめくように小さな声で言った。
「だったら、行かなければいいじゃない」
話しかけられ、びっくりして顔を上げる。
なつみと同じ、十歳ほどの女の子がいつのまにか近くに立っていた。
おおかっぱ頭で、無地のTシャツと短パンを着ている。
「あなたは?」
なつみが聞くと、女の子はにっこりとほほ笑んだ。
「私? 私はミヤ」
そう言うと、ぐいぐいとなつみの袖を引っ張ってくる。
「ね、なつみ、遊ぼう!」
「え、なんで私の名前知ってるの?」
「他の人から聞いたのよ。転校生は目立つもん。ね、あそぼ!」
何分もかからず、なつみはミヤと仲良くなった。ミヤはスマホを持っていなかったから、交代でパズルゲームをしたり、好きなテレビ番組とか歌とか、色々な話をしたりした。
あっという間に楽しい時間はすぎて、気付いたらもう帰る時間だ。
「あ、もうそろそろ帰らなくちゃ」
なつみが言うと、ミヤが「私も、なつみちゃんの家に行っていい?」と言い出した。
「え、でも……」
「友達を呼ぶときは、必ず早めにお母さんに教えてね」と言われているし、もうしばらくしたら夕飯になる。ミヤちゃんの分をこれから作るのも、お母さんは大変だろう。
「いいから、いいから!」
そういうと、ミヤは強引になつみについてきた。
仕方なく、なつみは自分の家の前に戻ってきた。
「た、ただいま」
(お母さんに迷惑そうな顔をされたらどうしよう)
なつみは恐る恐る、玄関を開けた。
母親は、ちょうど玄関に続く廊下を歩いている所だった。
「おじゃまします!」
ミヤは、くすくす笑って靴も脱がずに玄関に上がり込んだ。
でも、なつみの母は、「その子はどなた?」とも「靴を脱ぎなさい!」とも言わなかった。
「え、あれ、ミヤちゃんは?」
「ミヤちゃん? 新しい友達?」
「ええ? ええっと……」
母親はくすっと笑った。「なにボーッとしてるの? 変な子ね。早く上がって手洗いうがいをしなさい」
(お、お母さんにはミヤが見えていないんだ……)
靴のままなのに廊下に一粒の砂も落とさず、ミヤはなつみの部屋のある二階へと上がっていく。
「なつみ、先に部屋に行ってるね! 早くおいでよ!」
当然のように言われ、なつみは慌てて自室へむかった。
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