泣き虫君と弟分達その2

1/1
193人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

泣き虫君と弟分達その2

スイッチを押すとゴウンゴウンと音を立てて洗濯機が回り始める。 それを確認して、アツシは一息ついた。 今日は店の定休日だ。ここ最近休みの日となると雨続きで全然出来ていなかったが久しぶりに布団が干せた。 おかげで部屋の掃除も捗ったし洗濯もやれる事はとりあえず終わったのであとは買い物と夕飯の支度だけである。 時計を見ればもうすぐ16時になる所だった。 それを確認するとアツシはタイガにチャットを送る。ユキオは基本まめにケータイを見るタイプではないので用事がある時はタイガにまとめて送る方が早い。 今日は安売りなのでどうしてもお米が買いたいのだ。 そもそも買った米の大半がタイガとユキオに食べ尽くされるので買い物時の荷物持ちは恒例のことだった。 きちんと真面目に授業を受けているはずの2人からは直ぐに返信は来ないだろう。 まぁ、タイガは兎も角ユキオはもしかしたら寝ているかもしれないが。 とりあえずあるものだけ仕込みしてしまおうとアツシはキッチンへと向かった。 一通り作業が終わる頃、チャットを告げるスヌーズ音が鳴る。 手に取って見てみるとタイガからだった。 内容は付き合えること、ユキオも行けるが少し遅れることが書かれている。 時計を見れば、ちょうど今から行けば合流出来そうな時間だ。アツシはポケットに財布とケータイを突っ込むと家を出ることにした。 学校まで行くと遠回りになるので学校近くの交差点で待つことにする。 ここはよく買い物に付き合ってもらう際に待ち合わせで使っているところだ。 直接スーパーで待っていてもいいのだが、何となくこっちで待つことにしている。 ちょうど学校が終わったのか、幾人かが連れ立って信号を渡ってくるのを壁に寄りかかって見送った。 自分も同じ高校を卒業したので懐かしいはずの制服も、タイガ達がよく制服のまま遊びに来るのであまり感慨は湧かない。 そんなことを思いながらぼぅーっと眺めていると遠くから赤い髪が揺れているのが見えた。タイガだ。体格も良いので分かりやすい。 近くまで来たタイガは片手を上げた。  「よっ!」 「お疲れ様」 返事を返しながらアツシももたれていた壁から離れる。 「ありー。んで、今日は米で良いんだっけ?」 尋ねながら先を促したので歩きながら話す。 「そう。あと夕飯のおかず足りないの買いたい」 「はいはいー。ユキオも終わったらすぐ来るってさ。先生に呼ばれてるらしいぜ」 そこからは学校の話を聞いたり部活の話を聞いたりと、食事時に聞く話を聞きながらスーパーを目指して歩いた。 目当てのお米売り場へと着くとタイガがいつも買っているメーカーのものを掴み取った。 あっという間になくなってしまうのでいつも10キロのものを二つ買っていく。 ホント、高校生男児って滅茶苦茶食べるんだよ。 出来るならもっと買いたいところだが持てる量にも限りがあるので二つにしておく。タイガは持てるから大丈夫だと言うが、そもそもあるからとガンガンに食べられたのでは敵わないので2つにしておこう。 と思ったところで隣のタイガが悪戯っ子のように笑った。 「アツシヒョロいからなぁ」 「ひとつくらいは持てるよ」 ついムッとしてもう一つを手に取るがずっしりと重い。 家まで持つのは無理かも、と思っていたらヒョイと奪われた。 「はいはい。でも俺の筋トレ代わりだからダメー」 そう言って肩に二つの袋を乗せたタイガはまだ余裕があるらしい。 流石いつも鍛えているだけある。 10キロのコメを2つとついでにほかの買い物も済ませる 油が安いからとふたつ買ったのは失敗だったかもしれない。ちょっと重い。 「持つか?」 「いや大丈夫」 流石にこれも持たせたのでは申し訳ない。というか年上の面目がない。 なんて思っているうちにタイガが何かに気がついて後ろを振り返った。 「お、ユキオじゃん」 「本当だ。でも、ちょっと様子変じゃない?」 アツシも後方を見やるが何やら見知らぬ男に絡まれている。 「しつこい邪魔」 「そういう誰にも気の強いところが好きです1度だけ!1度だけでいいんで付き合ってください!!」 「ふざけるな邪魔だ」 男の声が大きいので自然とこちらにも状況が伝わってきた。 「あいつこの前ユキオにぶっ飛ばされたストーカーだ」 ユキオの額には青筋が浮かんでる。これは早く止め行かないとまたボコボコにしかねない。 慌てて駆け寄ろうとした所で横からタイガに制された。 「アツシは行くなよ」 なんで、と抗議しようと振り返ると真横を米袋が飛んでいった。 何を言っているか分からないと思うがアツシもよく分からない。 気がついたら10キロの米がストーカーを押し潰していた。 「ちょ……!!」 まさかの事態にアツシが真っ青になる。 意外とタイガも容赦がない。 「ユキオ大丈夫かー?」 「……余計なお世話だよ」 ムスッとした顔でそう言うが、アツシにはどことなく喜んでいるように見える。きっと来てくれるとは思わなかったから嬉しいのだろう。 「おー、わりーわりー!」 ユキオに文句を言われても全く気にした風もなくタイガはにこやかに笑うと男の上から米を退かす。 「さーて帰るか」 「え?!この人は」 驚いてストーカー男を指差すが二人ともキョトンとした顔をしている。 「どうせ警察連れてった所で厳重注意で終わりだよ」 「何もされてねーって言われてな。それに……こっちが訴えられかねねーからなー!」 ほらやっぱり!!!! 真っ青になるアツシをよそにタイガとユキオは帰り道の方へと向きを変える。 「…………」 色々思うことはあれど、アツシは賢く口を閉ざした。 さらば変態。 そして二度と顔を見せるな。 潔く男のことを忘れたアツシはユキオの方へと向き直った。 「ユキオ大丈夫なの?」 「……大丈夫。てかあんたの方が酷い顔」 真っ青じゃん、と言いつつひょいとアツシの荷物を奪う。 本当にこの子達は人の物を勝手に取っていく。 ユキオとタイガは行動がよく似ているのだ。 小さい頃からそういうところは変わらない。 しかも今は軽々持っているところがなんとも悲しいところである。 まぁ、どうせ帰ったらご飯を作るのは自分なのでギブアンドテイクということにしておこう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!