忘れることを学ぶ

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「えらいなげやりやな。なんか、困ってることでもあるんか?」 「今から占いするんやろ。その顔で人生相談始まってもな。こっちの気持ちの作り方がわからへんわ」 実際のところは順風満帆という状態ではなかった。でもそれをこのおばちゃんにいうほど、俺は人なつっこい人間ではない。 「ええか。ほんなら占い始めるで。気持ち作ってや」 「なんで俺が気持ち作らなあかんねん。俺は聞くだけやんか。たのむで、デーモン閣下」 おばちゃんは小さな目を目一杯開いて、俺を見つめていた。何かしら本と紙の束を取り出してカウンターの上に置いた。本の背表紙を盗み見ると細木数子の本だった。 「えーっと、名前は向井肇。1997年6月18日生まれ。23歳。クレイジーキャッツ所属。担当楽器はドラム。あだ名はバンマス。リーダー。おもな出演番組は…」 一番上の紙を見て喋っている。 「ちょっと、ちょっと、ちょっと。ちょっとまって。それはハナ肇の情報ちゃう。おれの名前は肇でハナ肇とおんなじやけど、おれはドラムとか触ったことないし、あっと驚く為五郎とか言わんから」 おばちゃんはうしろを向いてメガネをかけて、その一番上にのっていた紙を顔に近づけた。 「ああ、そうやな。間違ってるな。ちょっと急いでたから、混乱してる。ええっと、向井肇っと…」 彼女は紙をいくつかめくり、得心いったようにうなずきまた話し始めた。 「向井肇。23歳。製薬会社勤務一年目。彼女いない歴2年。想いを寄せる先輩はいるが、相手にされていない。記憶力はいい方だが、応用力がなく仕事はミスが多い。このあいだの花火大会に友達を誘ったのだが、断られてふてくされて、家でやけ酒を飲んで…」 「ちょっと、ちょっと。まって、まって。なんでそんなこと知ってるの。占い師でしょ。探偵かなんかなん。占いでそんなことまでわかるわけ?」 「ワッハッハ。我輩の辞書に不可能はない」 デーモン閣下がそう言って、胸を張るので、なんだかイライラして、紙を見たらおれのフェイスブックの情報をまとめた紙が印刷されていた。 「俺のフェイスブックを見たんやな。友達でもないのに。どっかからか繋がって、おれのところまできて、覗き見したんやな」 「ノー。いいえ。これは全て占いの結果です。あなたのフェイスブックというのは見てません。六星占術は全てを見通すのです」
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