太陽を待ちながら

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家で先輩のノートを読んでいると、呼び鈴が鳴った。 「どちら様ですか?」 「警察です。ちょっとお話をお伺いしたくて」 警察?警察が何の用だ?最近俺が犯した法律違反は自転車で一方通行を逆走したぐらいだぞ。 「警察が何の用ですか」 「ちょっとドアを開けてもらえませんか」 「開けなきゃダメですか」 「そうですね、廊下で大声で話ししてもいいですけれど、あなたのご近所の評判ってものもあるでしょう」 そりゃそうだ。別にやましいことはない。無修正のエロ本ぐらいじゃ、警察も捕まえないだろう。俺はとりあえずテレビでやってるみたいにチェーンをかけ、少しだけ開けた。 40歳ぐらいのスーツ姿のおじさんが顔を出し、警察手帳のようなものを見せた。やっぱちゃんと見せるんだ。テレビとおんなじだ。 「チェーンを外してくれませんか」 「ああ、はい」 俺はチェーンを外しドアを開けた。刑事さんが中に入ってきた。俺よりも大きい。180センチぐらいある。 「単刀直入に質問します。いいですか」 細い目で俺を見る。威圧というのはこういうことだろう。 「最近、絵を見ませんでしたか」 どういうところに、話が着地するのだろう。先が見えないまま、質問に答えるのはいやだったし、反射的に嘘をつきたい衝動が沸き起こった。なんとか刑事の意図を探りたかった。しかしこの鈍い素人の頭よりも、百戦錬磨らしいこの刑事さんの方がはるかに上手だろう。なんとかならないだろうか。 「どうなんです。絵を見ませんっでしたか」 「見ましたよ。いろんな絵を。イラストみたいなもの、落書きみたいなものも、絵画って呼ばれるようなものも見ました」 刑事さんは細い目をより細めた。眉間にシワが寄った。 「そうなんですね。私が聞いているのは、油絵なんです。どうですか?」 「ええ、油絵も見ました」 「どこで?」 「S市です」 一瞬間があいた。知らない情報だったのだろうか。 「どんな絵ですか?」 「『芦屋のひまわり』って呼ばれてる絵です」 「いつですか」 「前の日曜日です」 「三日前ですね」 「そうです」 刑事は俺に見えないように、手帳になにかかいた。ビックリマークだろうか。 「一人でですか」 「会社の先輩とです」 「名前を教えてもらえませんか」 「先輩に教えていいか聞いてもいいですか」 刑事は指先で手帳をトントンと叩いた。 「一般市民は警察に協力してくれるという前提のもとに、捜査をしてるんです。その先輩の意思は確認しなくてもいいでしょう」 「僕が後で先輩に怒られるかもしれない」 「あのね、ちゃんとした令状とってあなたの会社の資料を押収して、一人一人確認していけば、いずれは誰かわかるんです。そこまでしなくてもあなたは普段先輩と会ってるんじゃないんですか。今隠しても、すぐにバレますよ。我々の手間をかけさせないでください」 なんか言いたくねえ。勝手に探せばいいじゃんか。 「やっぱり確認してからでいいですか。すぐ済みますから」 刑事はこれ以上ないっていうぐらいの渋面を作って、また手帳をトントンと叩いた。 「聞いてくれ」 へっ、ざまあみろ。こんちくしょう。 先輩にメールした。すぐに返事が来た。 「別にいいよ、教えても」 なんだか軽い調子だったので拍子抜けした。先輩はこの刑事を目の前で見てないからだと思った。
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