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第1話 その少女の名はジュリア
20XX年。首都を中心とした巨大都市群が連結する首都圏メガロポリス。首都トウキョウの南西に位置する衛星都市、マチダ・ターミナルステーション。いくつもの商業施設の建ち並ぶその都市は、今日も人々であふれかえっていた。
マチダ・ターミナルステーションから続くメインストリートの中心を歩く少女が一人。
綾瀬日菜子。十六歳。
仲間たちは、彼女のことを『ジュリア』と呼ぶ。
どうしてそうなったのか? 彼女の幼馴染曰く。幼稚園の自己紹介で「ジュリアと呼んで!」と日菜子が自ら言ったんだと。しかし、当の本人である彼女には、そんな記憶は全くない。
だが日菜子は、ジュリアというニックネームが結構気に入っている。
彼女は、ジュリアというニックネームだが、別にそれほどその名を彷彿とさせるような容姿というわけでもない。
ぱっつんボブの黒髪。むっちゃ普通の女の子だ。
むしろその容姿は、地味に感じるくらい。だから、できればちょっとハジけたい。最近のジュリアが特に気にしているのは、そこ。何故なら、ジュリアはお年頃だからだ。
ジュリアの父は、大学で仮想物質可視化技術を研究しており、その道の第一人者である。一方で娘のジュリアは、空中元素固定技術に異常な関心を示していた。
しかし、彼女の父の専門は仮想物質可視化技術であることを忘れてはならない。目下その画期的な技術は、国内某巨大企業との共同研究が進められている。
その研究とは、仮想物質を実際に目の前に存在する物質として可視化する装置の開発、すなわち仮想物質可視化装置の開発だ。
開発用の実験を行うにあたり、県境の川に浮遊していた謎の死体の脳をスキャンしたところ、その死体の脳が妄想物質で異常に肥大化していることが明らかになった。
妄想で脳が肥大化した謎の死体……。
何故その死体は川に浮遊していたのか? 妄想で脳が肥大化するとは? 謎は尽きない。しかしそんなことより、人間の脳には、まだ誰も知らない未知なる可能性が眠っているということに注目したい。
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