1人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言って猫のお姉さんは、軽々とジャンプして自分の家の塀の上に登った。
僕はいい匂いのする方を見た。
女の子だ。この間、僕にパンを食べさせてくれた女の子が、その子よりも背の高い女の人と一緒に、僕に向かって歩いて来た。
女の子はわくわくして尻尾を振り回している僕の前でしゃがみ込むと、僕の目の前にパンを差し出した。僕はためらう事なくパンにかぶりついた。
良かった、待ってて。
僕が夢中になってパンにかぶりついていると、あっという間にパンを持っている女の子の指を僕の舌が舐めた。
女の子は声をあげて喜んだ。そうして僕の前足の両脇に手を入れると、僕を抱き上げた。僕を胸元で抱き締めると、僕の顔に強く頬擦りをしてくれた。
僕は嬉しくて尻尾で女の子の体を叩きながら、その子の頬っぺたを舐め続けた。
女の子が僕を抱いたまま立ち上がると、塀の上から猫のお姉さんが声を掛けてきた。
「良かったじゃない。どうやらあんたを連れて帰ってくれるみたいね。あんたの運はいい方向に動いたって訳ね。
運命は出たとこ勝負。あの時、四人の女の子の誰かにくっついて行ったら、もうこの子には会えなかったかもしれない。
それは、ついて行った先でどんな運命が持ち受けているか、わからないからね。
誰かの家に貰われて飼って貰ったかもしれないし、誰にも相手にされずにここに引き返して来る間に、車に引かれて天国に行ったかもしれないからね」
「お姉さん、もしここにかあさんが帰って来たら、僕がいなくなったってかあさん、悲しむんじゃないかな」
「その時はあんたに教えてあげるわよ」
「え、どうやって」
「どうやってって、こうやって話せばいいわけでしょ」
「こうやって話すのはわかるけど、僕が何処に行くのか、お姉さんは知ってるの」
「知ってるわよ。だってあんたを抱いている女の子とお母さんは、私の飼い主なんだから」
最初のコメントを投稿しよう!