あの子を待ちわびて

1/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
僕は壁に身を隠し、頭だけを出してあの子をじっと待った。 いつも太陽が、僕の目の前にある二階建ての家の屋根にたどり着いたころに、背中にランドセルを背負った子供たちが姿を見せる。 始めのころは現れた子供に尻尾を振って近づいて、頭を撫でられると更に尻尾を大きく振り、手で顎を撫でられると甘がみして答えた。子供たちは嬉しそうにけらけら笑い、僕の体を撫で回した。 僕は期待していたんだ。誰かが僕に食べ物をくれないかなって。一生懸命尻尾を振って愛想も振った。でも、触るだけで何にもくれなかったんだ。 僕は途方に暮れた。いくら頭を撫でてくれても、抱き上げて頬擦りしてくれても、僕のお腹の中は満たされない。 僕に群がって来た子供たちは、誰も食べ物を持っていなかったのかな。 そうして僕の元からみんな去って行った。 誰かについて行けば、食べ物にありつけるかもしれなかった。でも、僕はこの場所を離れたくはなかったんだ。 ここは僕が生まれた場所。この人気のない倉庫と隣の壁の僅かな隙間で、かあさんは僕たち三匹の兄弟を産んだ。 僕たちがよちよち歩きが出来始めたころに、好奇心が旺盛だった一番目に生まれた兄が、ランドセルを背負った子供たちに近づいて行った。するとひとりの子供が兄を抱き上げた。かあさんは兄を取られると思ったのか、牙を剥いて吠えながら子供に向かって行った。しばらくして、かあさんは帰って来た。兄がさらわれたと言って泣いた。 翌日、僕と二番目の兄がかあさんのおっぱいを飲んでいると、いきなりかあさんが立ち上がった。僕たちに寝床にしていた段ボールの箱の中に隠れているように言うと、大きな声で何度も吠えた。すぐに人間の声が聞こえ、かあさんの声は次第に小さくなり、そして聞こえなくなった。 二番目の兄はかあさんを探すと言って身を潜めていた段ボールの箱から出て行った。僕はかあさんの言い付けを守ってじっと箱の中に身を潜めた。わずかに残ったかあさんの温もりに体を擦り付けるように。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!