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振り返って、すれ違った時に見えたサラサラとなびく長くて綺麗な黒髪の持ち主を探す。
……やっぱり、すぐ近くにいた!
傍にいるのはあの女のガードかもしれないけど、そんなこと気にするもんかっ!!
「ふんっ!!」
拾い上げたペットボトルを全力で投げつければ、ナイスコントロールで女の方へ飛んでいく。
とっさに危機を察知したガードが動くけど、中身までは止めきれずにわずかに女の髪にかかったみたいだった。
私に比べれば極小の被害で済んだのに、女は汚い声でこの世の終わりみたいな悲鳴を上げる。
ふんっ!
外見が綺麗でも中身がそんなんじゃお里が知れるってもんよっ!!
「お礼を3倍で返せなくてごめんあそばせ」
ざわつく周囲とさらに顔色をなくす一樹、その全てを睥睨して、私は綺麗に笑ってみせた。
「あと、『成金』って言葉、古くない? ここは明治時代かよ。頭のアップデートができなくても、使用言語のアップデートくらいできるでしょ」
私の言葉に顔を真っ赤にして震えているってことは、あのバカ女にも私の皮肉が伝わったということか。
家格が下だからって、泣き寝入りすると思ったわけ?
ふんっ!!
成金……もとい『事業家』の娘、舐めんじゃないわよっ!!
「行くわよ、一樹」
「あ…は、はいっ!!」
私はもうそれ以上の興味を向けることなくその場から立ち去った。
ギリッと歯を噛み締める女とそのガードの視線を感じた気がしたけど、そういうものに慣れっこな私は、特に気にすることはなかった。
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