愛すること

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愛すること               白山 小鳥  私の好きな人は殺された。    私の名前は佐伯菜々。高校三年生。クラスにはいわゆる仲良しグループがある。メンバーの名前は、小田瑞樹、椎葉秋、西野風花、本堂祐美と私を含め五人である。そんなどこにでもいる様な平凡な高校生の私には、平凡に好きな人がいる。彼の名前は須賀和希。ザ格好良いと言うよりかはミステリアスな格好良さを持っている。そんな普通の高校生の話。    七月一日  六時半、いつものアラームが鳴り目を覚ます。うとうとしているうちに七時になり、母の怒鳴り声でやっと起き上がる。リビングに行くと父と小学五年生の弟、一斗が朝食を食べている。私の学校は家から近くないので、母は私の朝食は家族と別で弁当を持たせてくれる。顔を洗い身支度を整え、母の作ってくれた弁当を持ち勢いよく家を飛び出る。最寄駅に着くと瑞樹が待ちくたびれた表情でおはようと挨拶をしてきた。私は申し訳なさそうにおはようと返した。電車に乗ると秋が元気におはようと抱きついてくる。朝から鬱陶しいと感じながら、笑顔でおはようと返す。  学校に着くと教室で風花と祐美が携帯ゲームをしながら座っている。いつもの風景に安心しつつ二人と挨拶を交わす。私は自分の席に着くと斜め前に座る和希の背中をぼーっと眺めてしまう。今日も格好良いななんて思いながらため息をつく。四人が私の方ををちらちら見て、何か駄弁っている。面倒臭い、それが私の本音だ。仲良しグループなんて所詮は集団生活で居場所を作る為の形に過ぎない。私は別に皆のことが好きではない。嫌いという訳ではないが、皆とは壁がある様な気がして本当の友達ではないのだと思ってしまう。 すると私を呼ぶ声がする。私はぼーっとしていた頭を覚まして皆の所に行き、女子っぽく恋バナをする。普通に楽しく会話をし、和希のことをチラっと見る。彼はいつも通りぼけっとしながら寝たり起きたりを繰り返している。可愛いなと彼を眺めているとまた四人は何かを言っていたので、何を話しているのか冗談まじりに聞くとしらを切られてしまう。少しイラッとするがいつものことなので気にするだけ時間の無駄だ。するとチャイムが鳴りそれぞれ自分の席に着く。ホームルームが終わり授業が始まる。開始二十分を過ぎた頃和希はトイレに行った。なぜか私もお腹が痛くなりトイレに行くと、またこそこそ言われ、別に和希について行ってる訳じゃないのにと心の中で文句を言いながらトイレに向かった。面倒臭いから授業サボっちゃおうかな、なんて考えながら携帯をいじる。腹痛なんてとっくにどこかにいっていた。てきとうに調べ物や携帯ゲームをしていると、いつの間にかチャイムが鳴り授業が終わっていた。軽く先生に怒られ、教室に戻ると風花が和希君と何していたのかなんて聞いてくるので、なぜか私はイラッとして何もしてねえよと言わんばかりの表情で風花を無視してしまった。その後昼休みまで私は爆睡してしまった。昼休みになると祐美が起こしてくれた。風花は怒ってはいないが悲しんでいた。申し訳なくなった私は冷たいココアを買い、風花にお詫びした。風花は快く許してくれた。良い友達を持ったと無意識に笑顔になった。    私は、こんな日々を送っている。      七月二十五日  今日から夏休みだ。とてもウキウキした気分の中、悲しい出来事が起こった。    弟の一斗が殺された。    私は驚きと憎しみで涙が出なかった。私は両親が嫌いで、家族の中で唯一愛していたのが一斗でした。一斗は生意気だけど優しくていつも私のことを気に掛けていてくれる、そんな良い子だった。一斗の死因は窒息死でした。何者かが寝ている一斗の部屋に侵入し首を絞めたのだ。両親はもちろん私も殺人犯の侵入に気が付かなかった。なぜ一斗が殺されたのか、そればかりを考えていると夏休みなんてあっという間に過ぎていた。  夏休み明け、学校に行くと皆が強張った表情で私を見る。まだ犯人は捕まっていないので仕方ないとは思うけどそんな目で見られても悲しいだけでした。そんな私に瑞樹が声を掛けてくれる。それだけで私はホッとして涙が溢れた。他の三人やクラスメイトも私を必死に励ましてくれた。皆のことが大好きになった。特別瑞樹のことは親友と思える程好きになったし、実際出掛けたり電話でお喋りするのも瑞樹ばかりになった。瑞樹と喋っている時間はとても楽しく幸せだった。  ある日瑞樹と夜までカラオケに行っていた。カラオケ屋から出た後も道端で駄弁っていた。そろそろ帰ろうかと言い、二人は原付に乗り別れた。今日も楽しかったなと思いながらコンビニでアイスクリームを買い、また原付を走らせ家に到着すると、母が青い顔をして抱きついてきた。母を突き放すと、母は無事で良かったと何度も呟いていた。父が来たので何が起こっているのか聞くと、瑞樹が事故にあったということを知った。瑞樹の家の近くで原付同士がぶつかり、相手は逃げてしまったそうだが瑞樹は意識不明で病院に運ばれたそうだ。私は悲しみよりも先にまたか、という感情がよぎった。私が愛した人が死んで行く。しんどいと思った。まだ死亡は確定されていなかったのだが、死んでしまうんだろうと私は瑞樹を諦めたのだ。案の定瑞樹の意識は戻らなかった。  次の日学校に行く際、私の原付が目に入った。なぜか前輪がパンクし所々損傷している。なぜだろう。全く意味が分からなかった。昨夜までどこも壊れていなかった原付が今朝になって壊れている。いたずらかな、と軽視した。そのまま歩いて最寄駅に向かうが瑞樹の姿はなかった。電車に乗るとしつこいくらいにうるさい秋がパンパンに腫れた目でおはようと言ってきた。私は静かに返事をする。心が折れそうだった。一斗を失い瑞樹も失い、途方に暮れた。学校に着くと和希が目に入る。こんな状況でも好きな人の力は強い。和希が珍しく挨拶をしてくれた。私は嬉しくて笑顔になってしまう。するとクラス全体が私をしらけた目で見てくる。酷いことをしたと反省した。  帰宅後私は原付が壊れていたことについてちゃんと考えた。あの日行ったカラオケ屋から家まで、私の方が十分程早く着く。しかしコンビニに寄ったのがどのくらいだったか、思い出せない。しかしその後普通に原付を走らせたのだからその隙に壊されたとは考え難い。考えれば考える程分からない。事故のことを知っていたずらで壊されたとしか考えられない。そんなことする奴許せないと思った。今日いつもと様子が違った奴、誰かいないかと考えた。和希。大好きな和希、私と和希と瑞樹は家もそれなりに近い。瑞樹を殺してから私の原付にいたずらしにきたのか。いや、違う。コンビニでアイスクリームを買うなんて一分で済む。ということは瑞樹より約九分早く着いた私の原付に乗り瑞樹を殺したのだ。そうに違いない。私は横着し鍵をそのままにしていた為、そのようなことが起こったのか。怒りと悲しみで震える。私は和希を殺さなければならない。瑞樹の仇を取らなければならない、そう思った。   次の日の夜、和希の家の前に行った。電話で和希を呼び出す。事故の話を和希にするとあろうことか和希はすっとぼけたのだ。私は許せなかった。親友をこんな目に合わせたのが大好きな和希ということが。私は和希を刺した。初めに刺したのは頰だった。彼の綺麗な顔をこれ以上見たくないと思ったからだ。その後心臓を一突きしトドメを刺した。和希の家族が出てきて私は警察に捕まった。警察に事情を聞かれたので全てを話した。すると、訳の分からない話になった。  私は連続殺人で捕まったと言われたのだ。 私が殺したのは、佐伯一斗、小田瑞樹、須賀和希だと言われた。ふざけている。全ての罪を私に擦りつけて事を終わらせようとしている。そう思い私はパニックに陥った。その後なぜか少年院ではなく精神病院に入院させられた。先生が言うにはかなり回復したらしい。一度家に帰らせてもらえた。両親は優しく迎え入れてくれた。部屋にいても落ち着かなかったので母に頼み外に行かせてもらった。すると駐車場に置いてある壊れた原付が目に入り、近寄って見てみた。すると原付は前方に血がべっとりとついたまま放置されていた。私は悲鳴をあげた。すると嘘みたいに記憶が蘇る。    あ、そうだ、殺したんだった。                
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