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I have to like summer
さざめく波の音を聞いてレイラは一抹の不安に襲われた。慌てて散らかった
ベッドの上から飛び降りる。ツーツー、という着信音の後には『おかけになっ
た電話番号はー、』という機械的な声が聞こえてきた。はぁ、と深くため息を
ついて携帯電話をベッドに放り投げる。
潮風の匂いがスッと鼻をよぎる。不意に日記帳を取り出し
『カイセイ。テンキイジョウナシ。』
と殴り書きに近いような形で8月18日の欄に書き込んだ。んー、と軽く声を鳴らして、更に海の近くで見えた鳥をサッと描く。それは見事な出来栄えで、レイラはそれに満足したのかそこだけを破って部屋の壁に貼り付けた。 ジャムをたっぷりとのせたトーストをペロリと平らげ、その金髪の少女は部
屋から出ていった。
窓から吹き抜けた風でさっき貼り付けたはずの紙が落ちていることに彼女は
気付かなかった。その裏側には何かの文字が書いてあったことも。
【Do you still remember the voice of the sea?】
それは、レイラと私にしかわからない、遠い夏の記憶。
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