週末のスーパーライダー

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それから俺たちは、棗の愛機にまたがって旅に出た。湘南の海を目指した、ちょっと古臭いデートってやつだ。東名高速に滑り込み、スピーカーで音楽をかけた。高速道路じゃ聞き耳を立てるやつもいるまいと、不釣り合いなシガーロスを垂れ流す。棗は「聞き慣れた曲。」とでも言いたげに、途切れ途切れながら鼻歌でなぞっている。当然声は聞こえないが、とんとんと指で腹を小突かれたりする上に、なにより背骨に響く振動が、彼の鼻腔共鳴をあらわにしているのだ。だから俺も、聞こえない声で歌った。空気が震えるだけの歌声は、なんとなく切なかった。 棗はデートなるものを要求していたが、もちろん、このツーリングも俺とってはただの外出だった。正直彼の言うデートもよくわからなくて、特に気を使ったりはしなかった。それでも棗は楽しそうで、俺の腰にしがみついては、時々ちょっかいをかけてきた。 途中のサービスエリアで水を買い、よくわからない土産物を見て、二人ではしゃぐふりをした。当然お互いに東京在住なのだから、東京土産なんて買う必要もない。それでも棗は女のように物色し、自分の名前が書いてあるハンカチを見つけては面白そうにしていた。 「これ、俺のや。」 と、ピンクのハンカチを持っている棗は、どうにもアンバランスで可愛かった。 公道に降りてからは信号で止まるたびに少し笑いあって、青年のようにふざけた言葉を交わした。 「事故るって。」 「ええやん。心中、心中。」 「なーにが心中だ!」 今日の棗は、普段よりもいくつか自由に見えた。俺だってそうなのかもしれない。 やがて人の数が増え始め、スピーカーは黙らざるを得なくなった。流れる曲は巡りに巡っていて、中途半端に途切れた「ばらの花」の間奏は、甲高いピアノ玩具のような音だけを鼓膜に残していった。 信号が切り替わるのを待っている最中、棗は隣のハイエースを眺めながら言った。 「一縷くんは優しいなあ。」 「優しくしたいんですよ。あなたみたいな人にはね。」 信号の色が青に変わる。優しくしたいと言ったのは、本当に俺なのかな。棗の温度を感じながら、こうるさい街を走った。鎌倉なんて、いつぶりだろうか。
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