2人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日はありがとおね。楽しかった。」
ヘルメットを二つ、手にぶら下げて棗が笑った。俺は無意味にバイクの座席を叩く。もうすっかり冷え切っていて、手のひらから温度が吸い取られてゆくのがわかった。
俺たちの週末はこれでおしまいだ。明日の俺も、明日の棗も、それぞれ仕事に追われる予定が入っている。だけど、時は過ぎるし、曜日も変わる。季節は巡り、人は老いる。俺だってそうだ。当然彼も。
「暇ができたら、またきますね。」
「うん。」
待ってる、とは言わない。それでいい。心待ちにする必要はない。俺たちはお互いに、孤独を抱く必要があったからだ。
「次は、秋の海がいいな。」
もう暗い中で、彼の笑顔は夕暮れの色を強く残していた。しかしそれは、決して美しくはない、少し黄ばんだ、灰色だった。
最初のコメントを投稿しよう!