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風船
夏まつりの時期、風船を持った小さな子供達を見て、ふと思い出した。
私は幼いころ風船が苦手だった。
「風船が苦手」といわれて、まず真っ先に「割れる音がいや」と思いつく方は多いだろう。
しかし私は違った。
私は急に割れる風船より、少しずつ萎む風船が怖かった。
あれは私が小学校に入りたての頃だったと記憶している。
私は遊園地で風船を手に入れた。
貰ったのかもしれないし、買ってもらったのかもしれない。それは定かではない。
私は風船を押し入れに大切にしまって、毎日眺めては喜んでいた。
しかしある日、私は風船が少しずつ萎んでいることに気が付いてしまった。
どうにかできないのか、家族に聞いた。
もちろん大人にとって風船が自然にしぼむのはごく当たり前なことなので、何も答えてはくれなかった。
自分で考えても答えは出なかった。
そのうち風船は萎み切ってしまった。
私は自分が何もできなかったことが不満だった。
その時ふと飼っていた金魚が死んだ時のことを思い出した。
金魚は突然死んだ。
つい前日まで元気に泳いでいた金魚が死んだとき、私は風船が萎んだときと同じだけの悲しみを感じてはいなかった。
私は今、風船を見ても何の悲しみも覚えない。
風船を持った子供を見て、楽しそうだな、と単純に思うだけだ。
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