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あの子の結婚式
見慣れた街並みが窓の向こうを流れていく。所々に私の知らないお店や建物が混ざっている。そのせいで再現に失敗した「作り損ないの街」にも見える。
「姉ちゃん、もう着くよ」
運転する修二が言った。五つ年下の弟が、あの私のそばから離れなかった修二が、父のように上手に運転をする、不思議な感覚だ。
免許を取ってから数回しかハンドルを握ったことのない私とは異なり、実家でずっと暮らす修二はスムーズに車線変更していく。
左斜め向こうに白い屋根の塔みたいなものが見えてきた。
「あんな式場、いつ出来たの?」
私が言うと、修二は左手で無精髭を撫でながら
「三年くらい前かな? 中里の結婚式がそれぐらいだったし」
修二の友達の苗字を聞いて、坊ちゃん刈りの小さな男の子の顔を思い出した。最後に見かけたのはいつだったか。
「中里くんはあそこで式を挙げたの?」
「まだ出来たばっかりの時にな。オープン特典で百万円引きとかだったんだってよ」
「ふーん……」
まだ出来て三年しか経っていないという式場は白く美しかった。行ったことないのに「イタリアっぽい」と思わせるその外見は、いつもなら「綺麗なとこだね」と感嘆の声でもあげられただろう。
だけど、今日の式は今ひとつ気分が乗らない。かといって、行かないわけにもいかない。
今日は高校時代の親友・清水陽香の結婚式。三年間ずっと同じクラスで出席番号もずっと一番違い。同じバスケ部だったこともあり、一年の頃からいろんなことを話した仲だ。
陽香の結婚相手は、同級生の藤井尚弥。
彼のことはよく知っている。
私が、死ぬほど大好きだった人だ。
今日の結婚式ほど乗り気になれない式はない。
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