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イドマは息を荒げながら呟いた。
「ほら、ちゃんと稼げるじゃないか。昇進してるじゃないか、家も建てられたじゃないか!」
その瞳が僕を映した。
「あの時、ほんの少しでも勇気を出せば…もしかしたら君くらいの子供が――」
イドマは涙ぐんでいた。彼は慌ててハンカチを取り出すと「見苦しいものを見せた」と言って涙を拭った。
僕もまた、息が詰まる思いだった。
イドマに子供がいないように、僕にも父親はいない。元の世界に無事に戻れるかどうかもわからない以上、どうしても言いたいことがあった。
『イドマさん…僕には、父はいないん、です。僕が生まれて、間もなく、他界しました』
イドマはただ黙って僕の話を聞いていた。
僕の口からは自然と身の上話が出た。母子家庭に育ったこと。祖父も小学生の時に亡くなったこと。自分が理想とする父親像について。
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