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3 「よっしゃ、これで部員は全員揃ったな。じゃあ1年生たちはまずそこに並んでくれ。監督が来るまで立ったまま待っていてほしい」  張った声でそういったのは部長の杉田先輩だ。恰幅のいい3年生の杉田先輩は名実ともに男子のトップアマチュアで、将来はプロゴルファーを目指しているらしい、ということはパンフレットに書いてあった。  杉田先輩は、オープン戦という、一部のアマチュアも出場できるJPGA(日本プロゴルフ協会)公認の試合に出場してベストアマチュアになったこともあるらしい。そんなトップアマチュアを擁する日新高校は、ゴルフの名門というのに相応しい。こんな恵まれた環境で練習できれば、きっと神速の上達が見込めるだろう。  新入部員らしき面々は、グリーンサイドの芝生上に横一列に並ぶ。男子は四人、女子は三人、腕を背中で組んで緊張した面持ちをしている。僕もその一人だけれど、さほど緊張しているわけではない。  そして僕は左隣にそびえ立つ男を見上げて小声でささやく。 「なんでお前がここにいるんだよ」  こともあろうに、さっき食ってかかってきた竹内がそこにいたのだ。怪我で居場所を失った彼はいともたやすく僕の挑発に乗ってしまったらしい。   「……そのことか。さっき担任に直訴してきた。俺はどうせ野球部じゃお払い箱なんだ。確かにお前の言うとおりだし、俺も落ち込んでいないで身の振り方考えないと、って思ってな」  先ほど一触即発状態だった僕に対して、穏やかな言い方をしたことに、僕は違和感を覚えた。 「なんでゴルフなんだよ」 「ああ? 俺は打撃が得意だが、もう全力で走ることはできねぇ。こいつが言うことをきかないんだよ」  そういって自分の左膝をぽんぽんと叩いた。
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