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「だからってゴルフかよ。経験なさそうだけど……本気なのか?」
「そうだ、やると決めちまったから、男に撤回の二文字はねぇ。それにお前がああ言った目的は勝ち負け以上のことなんだろ? とぼけんなよ」
そういって竹内は僕に対し、ぐっと親指を突き立てて見せた。不似合いにも白い歯を覗かせていたから気味が悪くなった。「とぼけんなよ」の意味がよくわからなかったけれど、あまり関わらない方が身のためだと思って僕は口を閉ざすことにする。
するとそんな戸惑いの表情を、ぱっちりとした瞳が見上げていることに気づいた。腰を折ってまじまじと僕の顔色を伺っている。頭のてっぺん近くから突き出たポニーテールが僕の視界でぷらぷらと揺れていた。僕は一瞬、身を引いたけれど遠慮なしに声をかけられた。
「ねーねー、名前、確か黒木くん……だよね?」
「あっ、ああ、そうだけど……えっと、君は?」
ついさっき、練習場でゴルフボールを打っていた女子だ。僕より頭一つ分背が低く、小柄な体型だから、存在感が薄いのは否めないし、全体的にまるっこい感じがスポーツ選手というよりはレッサーパンダに近い気がすると考えて、内心、吹き出しそうになる。
ゴルフに関してはそこそこ上手そうに見えたから、実力がどの程度か興味はある、と上から目線で彼女を推し量る。
すると彼女はぴんと人差し指を立て、自分のほっぺを指差していう。
「あっ、あたし氷室……氷室 由衣。よろしくね」
少なくとも僕の記憶にはない女子だった。けれどもこの女子は僕を知っているようだ。僕はそれなり有名らしい、入部前から噂になっていたのだろうか、もしそうだとすれば過去の実績のせいだろう。自惚れていると思われるかもしれないけれど、そのことを否定するつもりはない。
僕は舞い上がって目が眩むような自意識過剰な陶酔はしないけれど、程々にポジティブなことはスコアを伸ばす上で重要な要素だと思っている。
そう考えていると目の前に右手が差し出された。すこぶる小さな手のひらだった。
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