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 僕は小学生の頃から父親に付き添いゴルフをたしなんでいて、また父が良き指導者であったことも手伝って、周囲が驚くほどに腕を上げることができた。  昨年、父の知り合いに「力試しと思って挑戦したらどうだ」と勧められ何の気なしに出場した関東ジュニア選手権で上位に入賞できたため、受験勉強を経ることなく特待生として日新高等学校に入学することができたのだ。 「ってか学生の本分は勉強って事、みんな忘れているでしょ。僕の前後左右、さっそく授業中寝てるし」 「あー、否定したなぁ。黒木くんもスポーツマンらしく正々堂々と昼寝しなさい!」  正直、スポーツ特待生になれたのは環境に恵まれたからだと思っているけれども、甘えて学業をおろそかにするつもりはない。 「嫌なこった、僕はいたって真面目なんだ。ちゃんと授業受けるからいびきは勘弁してくれよ」  なぜなら僕はスポーツで身を立てようとは毛ほども考えていないのだ。父と面と向かい合って話したことはないけれど、内心は父の家業を継ごうと思っている。そのためにも勉学に励み、日新大学の理工学部に進学したいと考えているのだ。 「……っていうか部活の話、止めた方がいいんじゃない?」  水を差すようだが、僕は小声で遠慮がちに提案した。さっきから皆、部活の話題で盛り上がっているけれど、それは僕の隣に突っ伏している同級生の複雑な事情を知らないからだ。  すると僕の予感は的中したようだった。皆が楽しげに盛り上がるほど、そいつの神経は逆なでされたようで、ついに堪り兼ねて不満をあらわにした。伏せた顔をのそっと起こすと、寄せた眉根の下にある鋭い眼差しが皆を突き刺す。 「うるせえな、お前らガキじゃあるまいし、浮かれすぎなんだよ」  その低くて威圧的な声は、楽しげだった辺りの空気を一瞬にして凍りつかせた。全く、雰囲気ぶち壊しだ。不運には同情するがクラスメートに罪はない。  そいつの名は竹内 健悟。僕と同じ中学校の出身だがクラスは違っていた。竹内は小学校の頃からリトルリーグに所属していて、野球一筋に生きてきた奴だ。中学校時代は4番サードが定位置で「将来有望なスラッガーだ」と監督に持ち上げられていた。身長175センチの僕が見上げるほどの長身で、鋼のように剛健な筋肉を持ち合わせている。まともにやりあったらワンパンされること請け合いだ。
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