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「そっ、それってテレビ放送される、あれですよね?」  驚きでそういうのが精一杯だ。学校に来られなくなった理由が試合に出場するためということだがプロと一緒にツアー出場とは恐れいった。『あれ』とはシーズン中、日曜の午後に放送される試合の中継のことだ。上位選手は観客に囲まれカメラが向けられる。そうでなくてもベストアマチュア賞を獲得できたなら、表彰式でちらっとくらいは映るだろう。 「ああそうだが。もちろんアマチュア出場だから賞金は出ないけどな」 「すっ……すごいじゃないですか!」  突然、氷室先輩が別世界の住人になってしまったような気がした。もはや僕がからかっていいような類の人間ではない。比べてしまうと、僕は自分がなんてヘタレなのだろうと自覚せざるを得なかった。 「だからお前の面倒は見れないそうだ。あいつが自分から伝えるから黙っていてくれ、って言っていたからもう知っているかと思ったんだが、まだ伝えていなかったのか。言い出しにくいのかもよ、あいつなりに」  歯に衣着せぬ物言いをしそうな氷室先輩だけれど、まだ連絡をもらっていないからその胸中を知りたくなる。けれども僕はそれを知ることはないのかもしれない。  なぜなら、その日僕が知った氷室先輩の活躍は、この夏の間、揺らいでいた迷いを拭い去り、僕の決心を固めさせることになったのだから。
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