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「舐めてなんかいないよ、ちゃんと真剣に勉強するからさ。それに息子が後を継いでくれるって聞いて、お父さん嬉しくないの?」  その言葉に父はいくぶん、冷静さを取り戻したようだった。重く低い声でいう。 「嬉しくないわけはない。だが、お前はまだまだ青二才だ、大人の凌ぎ合いというものを知らない。少なくともプロの世界がどれだけ厳しいものなのか、お前は自分の限界まで頑張って実感するべきなんだ」  そこでテレビから大歓声が沸き起こった。反射的に僕も父もその画面に目が移った。最終組の一人がパットを決めたところで、その選手の名前と「優勝」という二文字が画面に大きく表示された。  一瞬、画面に映る人物の誰が勝者なのかわからなかった。勝者は歓喜の声をあげるどころか、その場で崩れ落ちるように跪き、そして全身を震わせながらぼろぼろと涙をこぼしていたからだ。カメラの前、大観衆の前で、だ。 「……プロの世界ってのは、つまりこういうもんだ」  僕は何も言い返せなくなり黙り込む。父はそんな僕の顔をじっと見つめて唸った。 「……出ていけ。帰ってくるな。ゴルフを続ける覚悟ができるまでは、な」  そして僕の襟元を掴み上げ、強引に部屋から押し出した。そのまま庭に叩き落とし、部屋の襖をピシャッと閉め切った。  僕は唖然として、閉じた襖に向かって言い返した。 「帰ってくるもんか! 僕の気持ちもわかってくれない親のところなんか、もう出てってやる!」  僕は学校から帰って来た恰好、制服のままで、鞄一つを抱えて家を飛び出していった。
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