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「入ってきて、あたし、話さなきゃいけないことがある!」  その予想外の雰囲気に僕が立ちすくんでいると、氷室先輩はさらに言葉を重ねる。 「お願い、こっちに来て、っていうかとにかく来なさい!」  そう言って自分の目の前にある絨毯の空間を指差した。  僕はおずおずと靴を脱いで部室に上がり、黙って氷室先輩の目の前に正座をした。まともに顔を見れるはずなんかない。うつむいたまま氷室先輩の出方を伺う。 「黒木くん……」  氷室先輩らしくないやわらかな呼び方に、僕の不安はなおさらあおられる。 「あのね、しばらく黒木くんと一緒に練習できないと思うんだ。実はね……」  すかさず遮って僕が答える。 「知ってます、おっきい大会にいくつも推薦出場するんですよね。氷室先輩はすごいですね、僕なんかとは大違いで、ゴルフ上手いし、将来性もあるし、いずれプロになっちゃうんじゃないんですか?」  つい皮肉を込めた物言いをしてしまった。体格に恵まれていなければプロとしてやっていけないと思っているのは、誰よりも自分自身のくせに。 「そっ、そうじゃないの、あたしの言いたかったことは……」 「こんな不甲斐ない教え子に何を言ったって、もう、何の足しにもなりませんよ。だって僕、ゴルフ辞めるつもりですから」  どうせ負け犬の遠吠えにしか過ぎないけれども、氷室先輩に言ってやった。僕を説得しても無駄なのだと。  氷室先輩のこれからの時間は貴重なものだから、こんなヘタレの僕なんかに構っていてはいけないはずだ。だから放っておいてもらった方がお互いのためだ。 「うん、じゃあ仕方ないかな……君の人生だもんね」  氷室先輩はそんなささくれだった僕の心をなだめるような優しい声でいう。いつもは見せないその優しさは、ずるいと思う。けれどもその言葉には続きがあった。 「……でもきっと、いまだに気づいていないと思うから、ちゃんと伝えるね」  妙に意味ありげな、まるで愛の告白のような前置きで、でもそれはないし、だけどもっと根底に触れるような言い方だった。それくらいまで察してしまう自分の器用さが恨めしい、遮って逃げ出すことすらできなくなるからだ。
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