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覗き込み、その絵が一体、何を意味するものなのか凝視する。ところどころはげた黒マジックだったが、人の顔と平仮名が書かれているようなことはわかった。
けれどもそれが一体何なのか、理解できた瞬間――
――僕の心臓は激しく鼓動を打ち始めた。破裂するほどに、だ。
「これは……
まさか……まさか……ッ!」
今まで感じていた奇妙とも思える氷室先輩の行動原理の理由のすべてが、そのボールひとつに込められていたのだ。
氷室先輩は今にも噴き出しそうな、もしくは今にも泣き出しそうな、なんと言っていいのかよくわからないけれど、とにかくため込んでいる感情が我慢の限界を迎えましたといわんばかりに顔を紅潮させていた。
そのボールに描かれていたのは、確かに、かつて僕が自分で描いた、自身の似顔絵そのものだったのだ。
そして吹き出しに書かれていたのは、やはり思った通りの一言だった。
『がんばれよ』
すべてが繋がった気がした。
――間違いない。これは僕があの時、練習場で泣いていた女の子に渡したものだ。
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