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「ねぇ、ゆいぽん。ここでいったん、降りてくれない?」 「うん……」  ゆいぽんが自転車から降りると、僕は自転車に鍵をかけ、ゆいぽんを連れて河原へ向かい土手を降りていった。向かったのは、屋外ゴルフ練習場のそばの草の茂みだ。  暗くなってしまうと見つからないからと思い急いで茂みの中を漁ると、埋もれた古い練習用ボールを五つ、見つけることができた。その茂みの向こうには滔々と流れる桜川があり、さらにその先の田園風景が見渡せた。 「このボールなんだけどさ、どうせ見つからない運命なんだから、打ってみなよ」 「えっ、打つってどこへ向かって?」  その質問の答えとして、僕は川の向こう岸を指差し目測する。 「ここから川を超えるのは、だいたい100ヤードかな」  するとゆいぽんは薄闇の中でもわかるくらいの困惑した顔をし、「ええっ、無理だよそんなに飛ばすのは」と言って両手を目の前で振ってみせた。僕はそれを否定する。 「ううん、きっとできるよ」 「えっ、そんな……あたしは君みたいにいいショット打てないよ」  僕の練習する姿を見ていたのだろう。褒められたようで照れなくもない。 「でも、やってみなきゃわからないだろう」  僕はケースの中からゆいぽんのゴルフクラブを取り出して渡した。ゆいぽんは黙ってそのクラブを握って構える。 「いいショットを打つコツはね」  そこで僕は即席のレッスンを始める。他人に教えたことなどないくせに、今思えば一丁前に先輩気取りだ。 「怖がらないで。背中は伸ばして真っ直ぐに構える。肩の力を抜いて、クラブの重みを感じながら、自分を中心にして振り子のように体を回すんだ」  言いながら僕は見本としてシャドウスイングをしてみせた。
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