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――あの時の女の子、「ゆいぽん」の本名は「氷室 由衣」、つまり氷室先輩だったということなのか。
氷室先輩は紅潮した顔に上目遣いで僕の様子を窺う。
「あんなにひょろひょろじゃ全然、君に追いつけないと思ったから、これでも努力したつもりなんだ」
まさかゴルファーとしての僕を目標にしていたなんて。でも……
「わかるわけないよ、だって……」
僕はそういったと同時に、氷室先生の顔から下半身までの全体像をまじまじと眺めてしまった。
氷室先輩はその意図に気づいたようで、頬をさらに赤くして拳を握った両手を上げ、僕の胸をポカポカと叩いてきた。その体型の原因が僕だと言いたいらしく復讐が容赦ない。
「同一人物に見えないほど丸いから分からなかったとか言わない。おっきくなろうとして努力した結果なんだからねっ!」
「痛い、痛いですってば。誰もそんなこと言ってないですよ、昔が痩せすぎってことですよ」
「あたしは黒木くんのこと、すぐ分かったんだからね!」
「そりゃあそうですってば、だって僕、小学校の時にすでに身長高くて、今もその頃とあまり変わってないですもん」
すると氷室先輩は叩く手を止めて身を引いた。表情には湿り気が浮かんでいた。
「でもひどいよ……だって、黒木くんったらその後いなくなっちゃったしさ。勇気出してコーチに聞いたんだけど、それでわかったことは「黒木 有紀」っていう名前と、それから引っ越しちゃってもう来ないってこと……」
「だって親の都合なんですから。街工場移転の引っ越しだからしょうがないですよ」
その時、僕ははっとなってすぐさま尋ねる。
「ひょっとして、ゴルフを続けているのも、日曜日にゴルフ場でキャディさんのバイトをやっていたのって、僕のことを探していたの?」
すると氷室先輩はさらに赤らめて、首をこくんと縦に振った。
「だってゴルフを続けていれば、いつか会えると思ったんだもん。ほら、こんなふうにさ」
指で僕と自分の顔を交互に指す。その時、僕の胸中には意外な想像が浮かんだ。まさか、かなりのまさかだとは思うけれど、ためらいを振り払って尋ねてみることにした。
胸が早鐘を打つ。
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