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不意にその手が止まった。神経のアンテナが僕を感知したのだろう、バイザーのプリム(ツバ)の下に隠れていた眼差しが僕に向けられた。意志の強そうな、輪郭のくっきりとした瞳をしていた。その目は僕を捉えると、一瞬、驚いたように見開いた。
それからほんのわずかに、瞳が澄んで、潤んだようにも見えた。不思議な視線だった。まるで胸の中に宿したものを映し出したようでもあった。それとも僕の直感が彼女の瞳の奥にある何かを捉えているのだろうか。
その正体を探ろうと僕は視線を鋭くしたけれど、彼女は僕に声をかけることもなく、バイザーのツバの下に視線を隠すと、再び同じリズムでボールを打ち続けた。
ネットが白球を吸い込んで、ぱさりと揺れるのを、彼女はその目で追い、そして確かめていた。
淡い緑が包む練習場で、ただ規則的に生み出される乾いた音が、僕を僕のまだ知らない世界へ誘ってゆくようだった。
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