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1  瞬きする間に一学期が終了し、夏休みに突入した。ほとんどの学生は気が緩むのだろうけれど、僕の気持ちは次第に緊張感を増していた。夏合宿が待っていたからだ。  夏合宿は、日新高等学校が契約を交わした近隣のゴルフ場を、3日間限定で練習のために使わせてもらえるというものだ。  自転車を走らせれば高校から10分ほどで着くゴルフ場で、午前6時に集合し、午後6時の終了時刻まで緑の環境の中でめいっぱい練習するのだ。  広々とした打ちっぱなしでフルショット、本物のグリーンを使ってのアプローチやパッティング練習、そして実際のコースラウンドなど、学校の設備ではできない練習をさせてもらえるのでありがたい。ジュニア育成に理解のあるゴルフ場が日本のゴルフの将来を支えているのだろうと実感する。  僕らはあくまで学生であり、タダ同然でプレーさせてもらえるのだから、一般のお客様に遭遇した際には礼儀正しく挨拶をすることを忘れてはならない。  ただし、レジャーゴルフではないのでクラブを運ぶカートがあるわけでも、キャディさんがいるわけでもなく、ゴルフクラブを収納しているキャリーバッグは自分で担いでラウンドしなければならない。  炎天下に重いゴルフバッグを担いで走り回るのは過酷なラウンドである。間宮先輩は、この合宿を経験すればいかに競技ゴルフが精神的にも肉体的にも厳しい世界か知ることになると言っていた。事実、合宿で挫折し退部を申し出る生徒が後を絶たないという。  そして3日間の合宿のうち、最初の1日は練習日で、残りの2日間のラウンドにおける合計スコアで夏季大会の選手を決定するということだ。  初日の早朝、ゴルフ場に足を踏み入れると、やわらかな空気が辺りを取り巻いていた。真夏でも早朝は抜けてゆく風がすがすがしい。僕はこの朝のゴルフ場の雰囲気がとても好きなのだ。  いきいきした芝が朝露にしっとりと濡れている。鳥のさえずりや蝉の鳴く声が響いていて、新緑の葉と、真っ青な空と、それから純白の雲が視界を満たす。人工的な色合いをまるで持たない雄大な世界は、ゴルフという人間の些細な戯れを心待ちにしているかのようだ。  そんな風に感じる僕はやはり、競技ゴルフには向いていないのだろう。そう考えながらも、この緑の世界に対しての礼儀は真剣に向き合うことなのだから、手を抜いたりするつもりはない。自分の全力を尽くすつもりだ。
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