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1  二学期の初日、久々の登校になるけれど、教室で竹内と顔を合わせることになると思うと気が重くて仕方ない。今や部活での立場は逆転しているのだから。 チャイムが鳴る間際の時間に登校してみたところ、教室内では各々の夏の活躍の話で大盛り上がりしているところだった。  僕の後ろの席の高野さんは、バレーボール部でレギュラーの座を勝ち取ったらしく、女子の間で話題の中心になっていた。「すごーい、さすが美幸!」「これで来年も特待生決まりじゃん!」と、まさにシンデレラガール扱いだった。 「えへへへ、あたしは大したことないけど先輩たちのおかげで全国大会まで出場できちゃったし、いい経験できたなぁ」  と言って顔を紅潮させ、ぺろっと舌す仕草は充足感に溢れていた。それから続ける。 「でも噂だと竹内くんもレギュラー獲得したんだって?」 「……まあな。でも試合ってのは怖いな。普通のラウンドとは大違いだ。とくに雰囲気が、な」  机にべったりとへばりついたまま顔を上げていう竹内は不機嫌そうだ。選手に選ばれで喜んでいるということはなく、むしろ結果が不満足だったことを反省しているのだろう。僕はその会話の輪の中に入っていきづらいことこの上なかったから、仕方なく遠目で様子を伺っていた。 「でもすごいねー、たしか初心者からのスタートだったんでしょ。そういえば経験者だった黒木くんって一緒に試合出たんだっけ? あっ……」  最悪のタイミングで高野さんと目が合ってしまった。そして高野さんの表情を察した周りのクラスメートたちは一斉にこちらに目を向ける。  皆の視線が痛い、痛すぎる。憐れんでいるのか、蔑んでいるのかわからない。この反応をされることは必然の運命だったのだろう。 「……おはよう」  皆に目を合わせられるはずがなかった。盛り上がっていた会話が一気に静まり返ったのも間違いなく僕のせいだ。どうせ不甲斐ない奴としか見られていないに違いない。  その日は部活に顔を出すこともなく、早々に帰路についた。  もはやこのスポーツコースに僕の居場所はなくなったのだ。かつて竹内の身を案じていたことが今や自分自身の問題になってしまったらしい。生き恥を晒して部活を、そしてスポーツコースを続けていくことなんてできっこない。他人の活躍を知りながら、肩身の狭い思いで二年半以上を耐え凌ぐなんて拷問に等しいことだろう。  そして僕自身に、竹内を逆転するための要素はまるで見当たらなかった。
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