君を見上げて

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君を見上げて

銀もニンニクも、十字架だって克服してみせた。 今日こそ君に勝とうと思って目を覚ましたのに。 一体全体、君は何処へ行ってしまったのだろう。 いつの間にかここは僕の世界になってしまっていた。 僕だけの時間になってしまっていた。 僕の邪魔をする君はもういない。 僕を傷つける君も、もういない。 どうすれば君を倒すことができるのか。 どうすれば君を壊すことができるのか。 それだけを考えて生きてきた。 長い時間を生きてきた。 いつからか世界は君と、 そして僕だけになった。 そんな世界から君がいなくなって、 僕はたくさんのことに気がついた。 君がいたから花は咲いた。 君がいたから夜があった。 君がいたから僕は退屈しなかった。 だけどすべては遅かった。 花は残酷にも枯れるばかりで、 美しく咲くことはもうないし。 明けることのない永遠の闇に、 価値などこれっぽっちも無い。 君がいなくなってからずっと、 僕には何も、することがない。 僕はもう一つ気がついた。 それは悲しいことじゃないけど。 ちょっとだけ僕を寂しくさせた。 冷たくなった砂の上。 君がいたはずのそこを見上げて、 別れの代わりに教えてやるんだ。 「僕は君のこと、嫌いじゃなかったぜ」 張り合いも、 命の意味も、 無くしてしまったこの世界で。 それでも星は輝いていた。
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