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 仕事が終わり、帰路をBMWで走る。何時もの首都高から関越自動車道に入るルートだ。街のネオンは都内から埼玉県の智哉の家の付近まで来ると、ほとんどと言っていいほど無くなって高速の灯だけが眩しく光る。朝は緑色をした山々から新鮮な空気が流れてくるのが分かるが、夜は真っ暗な景色が左右に広がるだけだ。智哉は車の中ではナビをつけているが、道順はすっかり頭の中に入っている。もう都内で勤め始めて10年になるのだ。自宅からの通勤は骨が折れるが仕方がない。でも、いずれ作家になって悠々自適に暮らしたいという夢は捨てたくないと思う。智哉は前から考えていたことをもう一度思い返した。雑誌が主催する小説新人賞に応募してみるという手もあるが、9割方は冒頭ではじかれると聞く。昔のただの噂話かもしれないけれど、折角、ネットの小説投稿サイトで働いているのだから、そこで名を有名にしたい。  色々と考えを巡らせていると、自宅に着いた。カーポートに車を停め、玄関の扉を開く。 「ただいまー」 すぐに華絵と美嘉の声が奥のリビングから聞こえて来た。 「お帰りなさーい」 「お父さん、お帰りー」 元気な家族の声にホッとすると、ソファーに深く座った。 「お留守番、ご苦労だったな。夕飯は食べたか?」 智哉の帰りは9時近くなるので、何時も夕飯は先に食べて貰っている。 「今日はね、待ってたの」 華絵が顔を緩ませる。 「お、珍しいな」 「ええ、美嘉がどうしてもお父さんと食べたいって言うんだもの」 華絵が美嘉の肩を抱く。微笑ましい光景に智哉も顔を綻ばせる。 「夕飯はなんだ?」 「あのね、お母さん、餃子作ったんだって」 「そうか、よし、みんなで餃子を食べよう」 智哉はそう言うと自分の肩を揉んだ。 「疲れたちゃったよ。でも家族の為だな」 「うん、色々あったもんね」 華絵が同調して頷いた。すると美嘉が「お父さんの肩が揉みたい」と言ってソファーの後ろに立った。 「そうか、悪いな」 美嘉は小さな手で一生懸命智哉の肩を揉む。まだ小さいので力がない。 「ははは、くすぐったいよ」  智哉は揉まれている肩を揺らして笑う。今日、会社で読んだホラー小説の内容が頭の中で薄れていった。
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