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「遅かったじゃないか。何度も電話がかかってきてたぞ」 「電話?一体誰からだ?」 「名前を言わなかったらしいから解らんな。事務の子が言うには若い女の子だという話だ」 「女の子?」 「ああ」 智哉は頭を捻った。誰からだろう。 「身に覚えがないな」 「ま、またかけてくるだろ」 良太がペットボトルのお茶を喉を鳴らして飲む。 「そうだな。事故でさ、渋滞して遅くなっちゃたんだ」 「そうかそれは災難だったな。それよりどうだった?佐谷田純一は?」 良太がニンマリ笑って聞いた。 「どうだったもこうだったもないよ。所謂ニートってやつだな。親のすねをかじって暮らしているんだよ。小説はほんとにあった事を書いただけって言ってたな」 智哉は渋い顔をしてそう答えた。良太は両手を頭の後ろに持っていって反り返る。 「良い小説書けたのは偶然かな」 「ああ、同じような投稿が山ほどあるだろ」 智哉は疑問に思ってた事を良太と共有出来ると意図をして持ちかけた。 「智哉も気付いてたか。実は女性社員の中でも噂なんだよ。自殺マンションのことは」 「ああ、行ってみたいと思わないか?」 良太は嫌な顔をした。 「俺はゴメンだね。想像しただけで身震いするよ」 智哉はそれもそうだなと思いながら、缶コーヒーのプルタブを開けた。香ばしい香りが鼻に抜けた。 「俺は興味があるよ。美少女って言うのがいいじゃないか」 「あまり変な事に首を突っ込むなよ」 良太は智哉の肩を叩いて少し離れた自分の席に帰っていった。
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