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通夜は夕方からだと連絡があった。船橋は智哉の会社からは1時間ほどで行ける距離だったが、智哉の自宅がある埼玉県からは車でも電車でも3時間はかかる。純一君の母親は斎場に泊まると言っていたが、智哉はそんな度胸はない。生首死体と同じ屋根の下で眠れるほど肝が座っていないのだ、智哉は船橋にビジネスホテルを予約した。通夜では多少なりとも飲むかもしれないし、次の日は仕事である。華絵は美嘉を連れて一緒に船橋に行きたいと言った。
「ね、わたしと美嘉で留守番も怖いもの。一緒についていっていい?」
「ああ、でも楽しい旅行じゃないぞ」
「うん、解ってる。でもこの前も外泊したばっかりじゃない。台風の中に留守番してた人の身にもなってよ」
確かにそうだ。色々と不吉な事が続いた中、華絵は頑張ってくれている。
「じゃあ、俺は仕事を午前中であがるよ。電車で来るかい?新宿なら、湘南新宿ラインで乗り換えなしに来れる。カフェで待ち合わせしよう。連絡はラインを使ってすればいいな。逸れたら困るから」
「ええ、一応喪服にしようかな。行く訳ではないけれど」
華絵はそう言った後、智哉に抱きついて来た。今は寝室なので、人目を気にすることはない。智哉は華絵の身体を抱きしめた。シャンプーのいい香りがして少し心が落ち着く。ここ最近慌ただし過ぎる。早く悪夢が去ってくれればいいのだが。智哉は祈る様な気持ちになって、もう1度華絵の身体を抱きしめた。自分の手が震えているのが分かった。
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