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智哉はコーヒーを飲みながらパソコンに向かって、仕事を始めた。新作は素人の手から次から次へと投稿される。恋愛、青春、ヒューマンドラマ、ファンタジー、歴史、SF、ノンフィクションと色々だ。そしてホラー。智哉はその中でもホラーを担当していて、もうかれこれ5年になる。ホラーを担当しているが幽霊なんてものは信じていない。今日の純一君の話だって眉唾ものだと思っている。 プルルル、プルルル。  ふいにデスクの上の電話が鳴った。智哉は外からかかってくる電話には滅多にでない。主に事務職の女の子が電話をとる決まりになっているのだ。 「はい、ノベリストです。あ、ええ、おります。少しお待ちください」 目の前で事務の大石香苗ちゃんが目配せをした。俺に電話のようだ。 「井川さん、電話です。沢田さんだって。2番に保留です」 沢田さん、いったい誰だろう。知り合いにはいない名前だ。智哉は電話を取って保留ボタンを押した。 「もしもし」 「・・・」 返事がない。智哉はもう一度「もしもし」と言った。だが電話の相手は無言だ。仕方なく電話を切ると、香苗ちゃんに問いかけた。 「誰もでなかったよ。沢田さんってどんな人だった?」 「電話の感じは若い女の子でしたよ」 「若い女の子か、身に覚えがないな」 智哉は今年33歳だ。娘はいるが幼稚園に行っているまだ小さな子供だ。子供がかけてきたとは思えない。 「井川さんが通っているキャバクラの子じゃないんですか?」 香苗ちゃんは冗談めかして言った。ああ、そうか、その線もありそうだ。だが智哉はだいたいキャバクラで電話番号を教える時は個人のスマートフォンの番号を教えるようにしている。会社の電話番号を知ってる人なんか少ないのに。智哉は何だか悪寒がして、身体をブルっとさせた。
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