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 純一君と約束をした8月12日は月曜日なので、土曜、日曜と智哉は何もやる事がない。実家がある埼玉県の秩父には水曜日と木曜日に泊まりで帰省することになっている。智哉は家族で今年も軽井沢までドライブに行こうとその日の夜に華絵に声をかけた。華絵はソファーに座ってお笑い番組を見て笑い転げていた。智哉は視線をテレビから横に座る華絵に移し、右手をソファーの背もたれにかけて言った。自然と華絵の肩を抱くような形になる。 「土曜日に今年もまた軽井沢まで行ってみないか」 「ウン。やった。ほんと?」 華絵はソファーの上ではねあがって喜んだ。 「ああ、日帰りだけどな」 「それでも嬉しい。お洒落して行かなくちゃ」 「ハハハ、軽井沢は涼しいだろうからあまり薄着するなよ」 「勿論、何時に家を出るの?」 「朝早く出よう。そうだな、何時も会社に行くくらい。7時には出ようじゃないか」 「折角のお休みなのにいいの?」 華絵は気を利かせて言うが、口元は笑みが浮かんでいる。 「ああ、いいよ。お盆くらい家族サービスしなくちゃな」 智哉はソファーにかけた右手を華絵の肩の上に乗せた。自然ともたれ掛かって甘えた表情をする華絵に、今日も欲情してしまう。 やれやれ、俺も元気だな。 智哉もニヤニヤ笑ってしまった。  土曜日は美嘉が一番遅く起きた。夏休みに入ってからダラダラとしてしまって、段々起きる時間が遅くなってしまったと華絵がボヤいていた。美嘉はウサギさんが書いてあるピンクのパジャマを着て眠そうな目を擦りながら、キッチンの椅子に腰かける。 「美嘉、今日は皆でお出掛けするんだぞ」 智哉は美嘉の頭を撫でて口元を緩めて言った。 「うん、お山に行くんでしょ」 「そうだ、早くご飯食べて支度しなさい」 智哉は目を細めて美嘉の顔を見る。顔は母親譲りだろう。大きな瞳に、ふっくらとした唇、少しとがった顎が華絵によく似ている。女の子は父親に似た方が美人になると言うが、智哉本人は自分の顔に自信がなかった。二重だが細い目に、薄い唇。いかにも日本人といった顔立ちだ。
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