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智哉は夢を思い返して戸惑った。今日自殺マンションに行くからこんな夢を見たのだろうか。だが、待てよ。これで純一君に断りのメールを入れるほど、智哉は臆病ではない。仕事柄、怖い話にも慣れている。随分と怖い目にあったがまだ幽霊なんて信じていない。この前から会えるものなら会ってみたいと思っていたほどだ。
それにしつこいようだが智哉にはホラー小説を書いて『ノベリスト』に投稿し、書籍化したいという夢もあった。本物の幽霊に会えるならこんなに良い話はない。ベストセラー作家の夢に1歩近づいたような気がした。
「ただいまー」
汗で濡れたTシャツから着替えてチェックの服を着た時であった。玄関から華絵の声が聞こえてきた。
「おかえりー。ミーコどうだった?」
「それがね、行きの車の中で息を引き取ったの」
「えっ、死んじゃったのか」
「そう、まるで首でも絞められたみたいに目玉が飛び出て舌をだして」
「・・・・」
「美嘉もショックだったみたい。ずっと泣いてるよ」
「そうか。残念だったな」
智哉はそう言って泣きじゃくっている美嘉の頭を撫でた。
「また、猫を飼ってやるよ」
「やだやだ、ミーコがいい」
美嘉はそう言うとまた哭した。
夕飯はまるで通夜のようだった。華絵がハンバーグを作ってくれたのだがミーコの事を考えると肉を食べる事に抵抗を覚えた。美嘉もあまり食欲がないらしく、少しだけ食べてご馳走様をした。
智哉は7時には家を出なければならない。早く帰ってくるからと言って家を出た。美嘉は泣きはらした目をして智哉を見送ってくれた。
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