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ふいに智哉のビジネスバッグに入っているスマートフォンが着信を告げる。バッグからだして見てみると「佐谷田さん」と画面にでていた。純一君の母親からだ。智哉は急いで電話に出た。母親は智哉の声を確認すると、わあわあと泣いた。
「井川さん、井川さんですね、純一が見つかりました」
「そうですか。あの、どこで」
「中野区のビバリーマンションというところです」
ああ、やはりそうだったか。智哉は茫然とした。必死で喉から声を絞り出す。
「で、純一君は?」
「飛び降りて自殺してました。いや、飛び降りと言うか首つりです」
何?飛び降り?首つり?
「マンションの15階の金属製の手すりに縄を結わえ付けて、片一方を自分の首に巻いて飛び降りたんです」
「なんですって?」
「勢いをつけて飛び降りたからか、それとも体重でなのか、ハッキリと解りませんが、首は引きちぎれ、胴体と別になっていました」
智哉はその状況を想像して吐き気を覚える。胃から熱いものが込み上げてきて、胃がきゅっと引き締まった。肩をあげて身体をくの字に曲げて下を向く。母親は話を続けた。
「血は昨日の雨でだいぶ流されていましたから、白髪頭の純一の首が下の道路にゴロンと転がっていたようで、新聞配達の男性が朝一番に発見してくれたんです。容貌から最初は老人だと思われていたみたいなんですが。ですがそれから警察の方々が胴体を探したら植木の茂みの中に若い男性の死体があったそうで、ポケットから純一の身分証明書が出て来たというわけなんです」
智哉は絶句した。
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