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「クスクスクス」  どこかで女の子の笑う声が聞こえたような気がして辺りを見渡す。だがここは車の中、井川智哉は一人で車を運転している最中だ。他に人なんかいる訳はない。 「クスクスクス」 女の子の笑う声はハッキリと聞こえる。 智哉は確認するようにもう一度辺りを見渡した。 「おぎゃー、おぎゃー」 赤ちゃんの泣くような声が続けざまに車の中に響いて聞こえた。 「おぎゃー、おぎゃー」 赤ちゃんの泣く声は車外の騒音を掻き消すようにだんだんと大きくなる。ああ、参った。幻聴かな。暑かったから耳がどうかしてしまったのだろうか。よく暑気にやられると言うが俺もそろそろ年なのかな。智哉は早く会社に帰って涼しいエアコンの効いたところに行きたくなった。それに今日はドッと疲れている。会社の仲間に会って安心感を得たいとそう思っていた。
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