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 マンションは歩くにつれ、段々と近づいて来る。想像していたより大きなマンションだ。そして古い。築30年以上は軽く経っているだろう。智哉はマンションを見上げる。半分くらいの部屋には明かりがついていた。こんなところに好き好んで住んでいる人が居るって事は、なんとも不思議である。やはり、幽霊の話はただの噂なのか。智哉の心は少し落ち着いてきた。そうだ、今まで疑問に思わなかったのが不思議なくらいだ。住人がいるって事はただの怪伝説に毛の生えたものに違いない。そう考え胸を撫でおろす。ビルの谷間から生暖かい風が吹き込んできて、エアコンの効いた車内から出て来たばかりの智哉はすぐにじっとり汗をかいた。   マンションにつくと、集合ポストが左手にあって、その隣にエレベーターがある。皆が書く小説では上にある電気の明かりがチカチカしていた。と書いてあった。管理がきちんと出来ていないのだろう。隣の純一君を見ると上気した様子で何とも嬉しそうである。   「兎に角、エレベーターで最上階まで行ってみよう」 智哉は純一君の背中を手で叩いた。 「ええ、2人だったら怖くないです」 純一君は頷いて言う。 エレベーターの15階のボタンを押すと、ガタンと音がしてドアが左右に開いた。臆しながらも中に入る。その途端ハッとした。壁に『帰れるかな』の赤黒い字があったからだ。血を指でなぞったように殴り書きで書いてある。 「悪戯にしては趣味が悪いな」 智哉は目を背けて言った。するとチカチカしていた灯りがフッと消え真っ暗な世界が広がった。
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