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……そんな引きこもりが大の大人、それも警察官に体力で敵うわけがない。
それほど走ったつもりもないのに息がきれる。最後に走った時はもっと走れていた気がするのに。
体力が底をつきる直前、後ろを振り返って様子を窺ったら、そこには誰の影もなかった。いつの間にか逃げ切っていたらしい。
きっと、あんまり正義感の強い人じゃなかったんだろうな。職務怠慢のようにも思えるけど、今回に限ってはよかったかな。
安堵すると同時に、昨日、養父がリュックサックを買おうとしてたのを止めてしまったことを後悔した。
自分には、実の両親が僕を捨てた時に唯一持たせてくれたモノがあるから、と辞退したのだ。だけど、そのせいで警察に保護されてしまうくらいだったら、リュックサックくらい買って貰えば良かったかもしれない。
……いや、もしリュックサックを背負ってたとしても、それはそれで家出少年みたいに見えたかもしれないな……。
いつまで経っても解決しない自分の「体質」に不便さを感じて、燻るような怒りを覚えた。
この「体質」が全ての元凶だと、僕は思っている。
僕が両親に疎まれたのも、中学校に進学できなかったのも、外に出られなくなったのも、そして、今日こうして土地神への遣いに出されているのも、思えば全て「体質」のせいだ。
……でも、この「体質」が養父、ないしは陰陽師と引き合わせてくれたのも確かだ。こんな体質でもなければ、公に姿を現しているとはいえ、まだまだ謎のベールに包まれた陰陽師の全てを見ることは叶わなかっただろう。
それだけ、陰陽師は僕の人生を豊かにしてくれた。土地神への人身御供はその代償だと思えば、少しは納得がいく……ってことにしておこう。
この「体質」で失ったものは確かに多い。だけど、その分得たものも多いんだ。
そう思えるのは、養父があの時引き取ってくれたからだ。
その恩返しのために、僕は今ここにいる。
「僕は、僕にしかできないことをしよう。」
道中、何度も繰り返し、言い聞かせたセリフをまた唱え、地図とにらめっこしながら住宅街を抜ける道を探った。
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