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「よく来てくれたね」
三崎さんは僕が部屋に入ると、微笑んで迎えてくれた。
「いつもすみません」
僕は恐縮する。
三崎さんは証券会社で働く若いエリートサラリーマン。僕は大学生のアルバイト。
「ゆっくりくつろいで」
ゆるい猫っ毛の前髪をかき上げながら、三崎さんは言う。それがいつもの癖だった。
「ええ、ありがとうございます」
「君が休めるようにするため、君を指名してる。別にやらなくていい。僕は本気だからね」
「ええ」
「君が僕を本当に好きになってくれるまで待つ」
胸がちくりと痛んだ。三崎さんの真心は痛いほどよく分かる。
だけど僕はノンケなのだ。売り専ボーイをやってはいるが、これはあくまで学業のためだと割り切っている。いや、割り切っていたのだ。三崎さんに出会うまでは。
「外は暑かっただろ。ビールでも飲む?」
今日は都心から離れた閑静な地の落ち着いたホテルを指定されていた。僕はねっとりするような残暑の夕暮れの中、大学から真っすぐにここに向かってきたのだった。
三崎さんから受け取った缶ビールを、僕はごくごくと飲み干した。三崎さんは満足げに僕を見ている。
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