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エッセー オピニオン投稿の頃③新聞に掲載された投稿の紹介
○七十三歳の無職の女性が次のような投書をした。(要旨)
<私は詩、俳句、短歌の全集が欲しくて本屋へ行ったが一冊もない。文庫本のコーナーに何冊かあったが、小さい文庫本で名作が味わえるのかと思った。
店員に「ハイネ、バイロン、ベルレーヌ、ヘッセ、ゲーテ」と紙に書いて渡したら、
「これ、何ですか」
と言われた。有名な詩人を知らないのだ。
「雨月物語」の舞台が上演されるが、知り合いの高校生に聞いたら「雨月物語なんて知らない」と答えた。
昔は文学少女がいたのに、なぜ純文学はすたれたのだろう。時代のせいだろうか>
□それに対する批判として投稿して採用された文章(抄)
<・・・果たしてこれが時代の特殊な風潮と言えるのか。
ためしに投稿者と同じ世代の人間にゲーテの「ファウスト」を読んだことがあるか、バイロンやシェリーの詩集は読んだかと尋ねてみるがよい。
・・・・・
私はゲーテやバイロン、「雨月物語」を読んでいなかった七十代の人々が、別に教養のない人間とは思わない。
四、五十年前でも「雨月物語」を読まない人はいた。バイロンも同じだ。
それがほとんど読まれなくなっただけのことだ。
どうして若者を責め立てるのか?
私は小説や詩などの文学は、芸術性とは無関係に時代の流れと共に、消えたり生まれたりしていくものだと思っている。
七十代のAさんよ。
あなた方の世代が若者だったころ、あなた方全員がゲーテを読んでいれば、今の若者がこんなにゲーテを知らないことはなかったのだ。>
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