エッセー 地方自治体主催の文学賞のこと②

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エッセー 地方自治体主催の文学賞のこと②

 授賞式当日は特急で三時間かけ、現地に着きました。  町役場の人の自動車で案内されて、小説に描いた竜神の伝説の池に行きました。 「ここが倉橋さんの小説にも出てくる竜神の池です」 「ええーっ」  想像以上に小さな池でした。竜神の伝説とどうしても結びつきませんでした。  僕の小説では、おどろおどろしい魔の池のように描かれています。  町役場の人は、  (倉橋は、間違いなく一度もこの町に来ていない。想像で好き勝手なこと書いている) と間違いなく思ったでしょう。  その通りなのです。  パンフレットの写真と説明文しか知りません。  午後。町役場で盛大に行われた授賞式。長編部門、短編部門で大賞、優秀賞を獲得した人達が口々、    「小説の構想のため、二回にわたってA町にまいりました」  「取材のため、A町に来ました。自然や地域の人々と触れ合った貴重な経験でした」 と挨拶するのを聞き、全身フリーズ状態になりました。  まさしく佳作にふさわしい執筆態度でした。  どうしてこういう人間が書いた作品が入賞したのでしょうか?    
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