エッセー 地方自治体主催の文学賞のこと③

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エッセー 地方自治体主催の文学賞のこと③

 短編部門の入選作品を収録した『祭り街道文学大賞傑作選』は一冊だけ、僕の手元に残っています。  全作品、読んでみると、たぶん取材もせずパンフレットだけで適当に仕上げた僕の作品が、どうして佳作にひっかかったか分かります。  大賞を執筆したのは、プロの作家で、  「官能小説を執筆している」 と授賞式の時の自己紹介で言っていました。  プロの作家はその人ひとりだけでした。  大賞は、ミステリータッチの幻想的な作品でした。他は童話、民話、恋愛・・・バラエティに富んでいました。  僕に対する講評は概ね下記の通りです。(授賞式のパンフレットの記載と当日、事務局が話していたことをまとめています。記憶に頼る部分も多いのでそのあたりはご理解ください)  <竜神伝説の池に潜む竜神は、かつての恋人の生まれ変わりである松山洋介を池に招き、今度こそ永遠の愛を誓おうとする。その時、突如現れた即身仏の行人に阻止される。  会社で理不尽なリストラの仕打ちを受けて希望のない日々を送る松山は、行人の行動に内心怒りの気持を覚えるが・・・  幻想的で荒唐無稽なストーリーながら、ぐいぐい巧みに読者を引っ張って最後まで一気に読ませるあたり、安定した筆力を感じさせる。  小説として一番スッキリまとまった作品>  そもそも現地に取材なんかしていないので、掘り下げて書くなどできなかったのですけどね。  なぜ入賞できたかというと、他の作品を読むと相当ハッキリ分かります。  取材も重ねて文学的にすぐれた作品ばかりだけれど、A町でなくても通用する作品もあった。僕がフォローさせて頂いている方には、九州の方、関西の方、東北の方など様々ですが、その方達の地域の中にある町でも差し支えなかった。  文学賞だから、文学的に優れた作品を選ばなければならないんですが、地域興しという目的があるので、  「ただ『A町』の名前が出てくるだけの作品ばかりだと・・・」 となったのだと思います。  僕の作品は、A町のパンフレットをまるまるリライトしているので、もよりの駅は出てくる、竜神の池の伝説は出てくる、即身仏の話は出てくる。祭りは出てくる。  一種の観光小説になっているばかりか、わざわざテレビの特番で深見池の伝説や即身仏が取り上げられているシーンも出てくる。  主人公がラジオを聞くシーンで、A町から祭りの実況中継のシーンが出てくる。  A町の人は親切な人ばかりだったとさりげなく讃えるシーンまで出てくる。  盛りだくさんの「A町は隠れた名所だと称賛する小説」になっているので、佳作の最後の一篇に引っかかったんだと思っています。
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