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エッセー 共同出版について⑥出版するといろいろ電話がかかってくる
『ぼくたち二人名探偵』が文芸社のコンテストで児童文学部門賞を受賞した時のことです。
出版後、ほどなくして奇妙な電話がかかってきました。
「映画やドラマを制作しているプロダクションです。
ぜひ『ぼくたち二人名探偵』をドラマにしたいと思いまして、作者の倉橋さんにご相談の電話をおかけした次第です」
「ありがとうございます」
プロダクションの人間を名乗る男性は、
「大変面白い小説なので連続ドラマにしたい。
私達のプロダクションは、これまでにもいくつもドラマをつくってきました。
その中には、俳優のAやBの主演ドラマがあり、テレビ局からも信頼を貰ってます。
だから倉橋さんの小説もすぐドラマ化できます。
すごいですよ」
とか耳障りがよさそうなことを繰り返しました。
ただ僕は冷めてました。
無名の人間の小説のドラマ化を企画してどうするのか?
有名作家の原作の方がテレビ局に企画が通りやすいに決まっている。
プロダクションの人間を名乗るこの男性は何がねらいなんだろうか?
そのうちに、本題に入りました。
「この小説をドラマ化するためのプロジェクト(そう言ったと記憶します)を立ち上げたい。
倉橋さんにも原作者として参加して頂きたいのです」
「プロジェクトとは何です?」
「倉橋さんの小説の連続ドラマ化を進める制作会社のようなものをつくりたいのです。
ぜひ倉橋さんにも制作会社の一員として責任を担ってもらいたいんです」
「具体的にはどういうことです」
「全員で制作資金を出し合って、ドラマ化に向けて進みたいのです。
ひとり百万円くらいずつ出し合うんです。
ドラマが放映されれば、倍以上になって戻ってきます」
この瞬間です。僕は完全に信用する気をなくしていました。
「それはおかしいでしょう。
僕は原作者です。あなたたちから十万でも二十万でもお金を貰う立場なんです。
どうして僕がお金を払うんですか?
そんな話聞いたことありません」
「ですので、プロジェクトを立ち上げるんです。
ドラマ化は間違いないんですよ。
せっかくいい方向に向かってるのに、大きな儲けを捨てるんですか?」
「好きなようにドラマにして下さい。
原作料はいくらでも結構です。
別に何もしたくありませんから」
「それだけではもったいないですよ」
「そちらのプロダクション。お金がないんでしょう。
原作料が払えないなら、もう話す必要ありません」
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概ね、そういったやりとりだったと思います。
当時のメモを読みながら、記憶を巡らして書きました。
その後、文芸社からの会報に次のようなニュースが掲載されていました。
文芸社から共同出版した女性に突然、映画制作会社を名乗る人間から連絡が入り、
「あなたの本を映画化したい。莫大な儲けになる」
と持ちかけ、しつこく出資を募ったということです。
古代史の研究者として人気のある元産能大学教授の安本美典氏は、いくつかの著作で次のように語っています。
「人を疑うのは本当に嫌なことだ。
誰でも人を信じたいと願っている。
だがそれにつけこむ人間は必ずいる。
それが現代を生きる私達にとっての苦い現実ではないのか」
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